BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

鬼ごっこの明暗

12R優勝戦
①近江翔吾(香川・107期)05
②中村日向(香川・122期)07
③末永和也(佐賀・124期)15
④羽野直也(福岡・114期)12
⑤上條暢嵩(大阪・110期)14
⑥仲谷颯仁(福岡・115期)15

 翔吾22号が勝った。今日もコンマ05という突出したスタート。唸るような1マークまでの行き足。他の追随を許さぬインモンキー。

 まだ実戦(リプレイ)をご覧になっていない読者は、ここまで読んで「一人旅の圧勝だったか」と思うだろう。そう、思って当然の1マークの攻防だったのだが、そこからちょっと異質な光景が繰り返される。

 そう、124期の末永だ。まずは近江以外の5選手が内外から殺到した2マーク、俊敏な差しハンドルでど真ん中を突き抜けてみせた。私の前予想は「混戦になればなるほど羽野、上條、仲谷の経験則がモノを言う。だからデビュー3年ちょいの末永は軽視」だったのだが、そんな皮算用を嘲笑うような冷静的確な差し抜け!

 いや、これはまだほんの序の口だ。完全に2番手を取りきった末永は、後方の大先輩には見向きもせずに、前を見た。はるか前方の近江の背中を。2周1マークで5艇身、2マークで3艇身……1マークでぶっちぎったはずの近江に、目に見えるレベルでぐんぐん近づいて行く。

 3周1マークでは、ほんの一瞬だが末永の舳先が突き刺さったように見えた。なんちゅうターンスピード!! 節イチ級の出足も後押しして、サイドの掛かりもエグすぎる。私も含めてスタンドに陣取った観衆は、「えっ!?」とか「おっ!?」とか疑問符の叫びを挙げつつ、あとは固唾を呑んで見守っている。
 ヤングの祭典とはいえ、ふたりのデビューは8年半も違う。12年前にデビューして今回がラストチャンスの107期が必死に逃げる。デビューして3年ちょいの若武者が容赦なく追い上げる。3周バックの差は2艇身ほどだが、私の目には佐賀の若き鬼武者が獲物を捕えきったように映った。

 最終ターンマーク、先頭の近江よりもコンマ数秒ほど早く末永が差しの初動を入れた。明らかに優勝だけを狙った超鋭角差し。
 ほ、ホントに逆転するのかっ??
 思った瞬間、末永の艇は左右に揺れ、完全にバランスを逸してその場に座り込んだ。落水しなかったのが奇跡くらいの振り込みで、後続の羽野がギリギリ回避している間に1-3-4態勢は1-5-6に姿を変えていた。

 1-3-4を持っていたファンは茫然とされただろうが、23歳の天才レーサーの心情も分からないではない。追って追って間近に迫って、優勝の2文字がはっきり脳裏に浮かんで、人間の能力を少しだけ超える異次元のターンをやらかした。もちろん、不良航法の減点10点では済まされないくらいの“戦犯”ではあるが、同時にこう思われたファンも多いことだろう。私も含めて。
 末永和也、後生おそるべし。

 ありえないような後輩の猛追を振りきって、近江22号機は嬉しいGI初制覇のゴールを通過した。おめでとう、翔吾クン! 私は前検から馬鹿のひとつ覚えのように「22号機22号機」と騒いできたが、優勝のゴールまで辿り着いたのはほぼほぼすべて近江翔吾という男の実力だ。22号機の特長である出足~行き足を生かしきるために、スリットほぼ全速の「質のいいスタート」に徹し続けた。しかも、2走目からはすべてコンマゼロ台!! この高い集中力と強気強気で攻めたてる強靭な精神力が、逆にエース22号機の背中を後押ししたのだ。綺麗ごとでもなんでもなく、この優勝は「翔吾×22号機の二人三脚の優勝」とお伝えしておきたい。

 さてさて、この29歳の優勝者は16歳でやまと学校に入学して、そのリーグ勝率は4・33と水準よりかなり下で……これは初日に書いたな。ボートレーサーを目指したキッカケは、中学のときに親とボートレース丸亀に行って、たまたま阿波勝哉の6コース一撃まくりを観て……うむ、これも確か3日目に書いたはず。そう、今節は前検で近江22号機に惚れ込んだ私が、優勝するとも知らずに緊急連載であれこれ書き殴ってしまった。今となっては非常識なフライングってな感じだけど、まだ読んでいない読者におかれては初日~3日目のアーカイブ記事をご覧くださいませ。とにもかくにも、おめでとう翔吾クン!

 あ、最後の最後に、チックり辛口の一言をば。
――1節6日間72レースで、5号艇も6号艇も5コースも6コースも1回も勝たないヤングダービーって、どうなっとるんじゃーーい!!
 全速スピードよりもコースの利がモノを言う若人の祭典。自称・穴党の私は、絶対に認めませんっ!(photos/シギー中尾、text/畠山)