BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――過酷すぎる明暗

 11R。丸野一樹がしっかりと押し切って、トライアル2nd行き一番乗りを決めた。賞金ランク18位の丸野が真っ先に勝ち上がったのだから、トライアル1stは一筋縄ではいかない。ピットに戻った丸野はニコニコ! 勝利と、2nd勝ち上がりの喜びをまったく隠そうとしなかった。実に素直な様子がなんとも微笑ましい。これで2年連続で1stから2ndへ。ここで終わりではないと、昨年すでに経験しているのだから、妙に一息ついてしまうような心配はあるまい。

 白井英治は5着に敗れたが、初戦の1着が効いて2nd行きを決めている。とはいえ、やはり大きな着となってしまったことで、表情は渋い。勝っても険しい顔であがってくることが多い白井ではあるが、今日の場合は明らかにこの敗戦を悔いていた。勝ち上がることが目的の1stとはいえ、ひとつひとつの敗戦はやはり重く響く。

 ただし、それが敗退を確定的にするものであるなら、なおキツい。桐生順平がまさかの6着。そしてそして、まさかのシリーズ回りとなってしまった。エンジン吊りの間、仲間といるときには苦笑いを浮かべる時間が長かったが、いざ一人になれば一気に表情は暗くなる。初戦2着である程度の手応えは感じていただろうからなおさら、たった1度の大敗が目指すべき頂への道を一瞬にして閉ざしてしまったことは、ただただ心を締め付けるものだろう。

 上條暢嵩も4着で敗退決定。初のグランプリは、見せ場を作ることができずに、2日間で終わってしまった。初戦6着、2戦目6号艇。ある程度覚悟もあったということなのか、ややサバサバしているようにも見えていたのだが、しかし控室へと消えていこうというとき、露骨にがっくりと肩を落としている。目標だったグランプリ出場。それをかなえたが、あまりにも不完全燃焼が過ぎる結末。いろいろな意味で己と向き合わざるをえないこの結果は、やはり落胆しかないというのが本音であろう。この雪辱はまずシリーズで、と願わざるをえない。

 12R。毒島誠が勝負に出た。スタート展示から動きを見せていたが、本番ではさらにぐぐっと動いて2コース奪取。1コースを死守した遠藤エミだったが、80m起こしでスタート勘の修正ができずに遅れ、毒島がジカまくりを打つ展開となった。しかし、その間隙を突いた磯部誠が抜け出して、毒島は2着。毒島は条件を把握していただろうか。ピットにあがった毒島は堅い表情のまま控室へと向かい、道中で磯部が頭を下げに来ても、まるで表情を変えずに神妙に頭を下げるのみだった。

 この12Rの結果を受けて、毒島はいちおう6位タイとなっている。しかし、同得点で同着順の場合、選考順位上位が優先となる。同じ着順で並んだのは後輩の椎名豊。選考順位は椎名のほうが上のため、毒島は次点に泣くこととなってしまった。まさかのシリーズ回り……。毒島の表情が固まるのも無理はなかった。一方、椎名には西山貴浩らが「よかったな~」と祝福の声をかけている。椎名はちょっと照れ臭そうに頭を下げていた。

 勝った磯部に向けられる祝福もなかなか盛大だった。エンジン吊りを終えて、大きく溜息を吐きながら天を仰ぐ磯部。安堵の思いがあふれるアクションだったのだが、そのとき平本真之が胸をグーでぽんと叩いた。それが合図となったかのように、次々に仲間たちが磯部の肩や背中や胸元に祝福のパンチを浴びせた。磯部はひとつひとつに丁寧に頭を下げ、最後にまたひとつ、大きく息をついたのだった。オープニングセレモニーで宣言した「底力を見せます」。それがひとつ、実現できた瞬間であった。

 3着で2nd進出を決めた羽野直也にも祝福は浴びせられている。原田幸哉に肩を抱かれたときには、なんともキュートな笑顔を見せた。これぞ羽野きゅん! もっとも、その後はきゅっと引きしまった表情に戻っており、明日へと視線を向けたようだった。なんだかんだ、骨太の男なのである。

 それにしても、遠藤エミよ……。あの進入は想定外だったか(2号艇の池田浩二がそう言っていただけに、遠藤もその可能性が……)。6着大敗で、史上初の女子グランプリは2日間で終わってしまった。残念極まりない……。それは遠藤自身も同様だろうが、レース後は対戦相手に頭を下げるばかりで、敗退への悔恨をことさらにあらわしてはいなかった。まあ、遠藤のレース後は往々にして淡々としたところはあるのだが……。きっと遠藤も、消化不良のはずのトライアル1st。また必ずこの場所に戻ってきて、この雪辱を晴らさねばならない。晴らしてほしい。

 シリーズ戦。今日は水神祭が2軒。1Rの新開航と5Rの近江翔吾だ。ともに1回乗りだったため、勝利者インタビューから戻るとすぐに水神祭が行なわれている。祝福を浴びながら彼らは笑顔で控室へと戻り、着替えを終えて、そして調整と試運転を始めるのだった。1号艇でしっかり逃げた。しかし、それが機力万全の証しではない。とばかりに、予選後半戦に向けて、遅くまで明日の準備を進めた二人。近江は初日に大きめの着を並べているだけに、この勝利をきっかけにしてさらに浮上を狙いたいところだろう。

 8R2コース差し切りで初日から連勝となった島村隆幸もまた、緩めることなく遅くまで作業を続けた。連勝といっても2号艇と3号艇。外枠が回ってくる明日以降、まだまだ余裕があるとは言えないだろう。
 BOATBoy6月号では同期の永井彪也が巻頭インタビューに登場している。109期は永井、丸野一樹、大上卓人とSG常連となっている選手が複数いるわけだが、そこで島村にも永井は言及しているのだ。引用する。

永井 この間、島村が「みんなタイトル持ってるし、SGにも行ってるし」みたいに言ってたんですけど、「俺らは初出場しちゃったから、初出場初優出初優勝っていう強烈なことはできない。それはお前にしかチャンスないよ」って言ったんです。そういうモチベーションで頑張ってみたら、って言いました。そしたら「おお、たしかに」って言ってました。

 その志を今節も抱いているかどうかはわからないが、もしその会話を島村が覚えているとするなら、それを現実のものにするチャンスは十分にあると言える、予選前半の活躍と言えるだろう。もし本当に実現してしまったとしたら、今日の遅くまでの作業をしている姿を僕は思い出すだろう。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)