松井繁の“淡々”はやっぱりすごい。
昨日、セット交換&キャリアボデー交換で3コースまくり1着をもぎ取ったあと、即座にまた本体を割ったことは書いた。それはどうやらクランクシャフト交換だったようで、勝利のあとでも納得の域に達していなければとことん追究するのが王者の“淡々”。それは執念と呼んでもいいし、己に課すハードルが高いのだとも解釈できる。もちろん松井自身は当たり前のこととしてやっているのだろうが。
3R発売中がまたすごかった。2R発売中から、係留所で整備士さんと話し合う姿はあったのだが、3R発売中になるとボートを上げて、整備室前までボートを運んでいる。手早く外したのは、ざっくり言うとプラグが収められた部分。僕の乏しい知識では、シリンダケースと接触する場所と思われ、その部分の接触が悪ければ燃料を爆発させたパワーが十分にモーターに伝わらないはずである。間違ってたらすみません。
そのとき松井は、カポックを着用したまま。脱ぐ間も惜しんでの整備なのだろうと納得していたのだが、部品を交換した松井はそのままリフトへ直行。瞬く間に水面へと下りていった。そのつもりだったから、カポックを脱がなかったのだろう。
それから数分後、松井が再びボートを上げた! そして先ほどとまったく同じ動きを見せている。交換し、水面で(係留所で)モーターの動きなどを確認したものの、あまり改善していなかったのだろう。だったら整備をやり直すまで、と素早く陸に戻ったのだ。
この交換作業の間に、さすがにボートを着水させてよい時間は終わっており、再度水面に下りていくことはできなかった。だが、松井はボートをリフトに最も近い場所に運んでおり、すぐにでも下ろすつもりであることは明白だった。
いったん、控室へと戻った松井。そのすぐあとに3Rは締め切られ、レースが始まっている。レースが終わり、松井はエンジン吊りへ。武田光史のボートを率先して運ぶなど、きびきびと動いた。それが終わると、すぐさまボートへ。そしてカポック着用! 結局、控室へ戻ってものの5分ほど休んだだけで、松井はふたたび水面へと下りていったのである。
4R発売中に僕はいったん記者席に戻ってこれを書き始めたので、その後の松井の動きは見られていない。もしかしたら、さらに同じ整備をやり直したかもしれないし、他の調整に入ったかもしれない。ひとつ、3Rから安定板が装着されたのだが、松井はまだ安定板には手をつけていない。すくなくとも、板を着けての調整は必須であって、松井はさらにそれをこなしてレースに臨むはずなのである。
全選手に気を配ってシャッターチャンスをうかがっている中尾カメラマンも、選手のコメントを集めているJLCのキャスターさんたちも、つまり他の選手にも目を向けているはずなのに、「松井さん、すごい……」と呟いていた。さまざまな選手や場所に注意を向けていても、松井のその動きはビンビンと伝わってきたということだ。というわけで、この3日目前半の記事は王者の淡々とした動きに終始してしまったというわけである。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)