BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――熾烈混沌

 1位争いもボーダー争いもなかなか混沌とした様相の4日目。1位争いは、8Rで小池修平が5着大敗となったことで、その時点での暫定トップには上條暢嵩が立った。あとは11Rの入海馨待ち。上條は9R終了後の1便で、結果をピットで見ることなく宿舎に戻っている。まあ、宿舎は同じ敷地内、ピットのすぐ裏手で徒歩数十秒ですが。その途上、ちょっとだけ言葉を交わせたのだが、足はしっかりしているとのこと。もちろん心中では入海の結果が気になるところではあろうが、それについては上條にできることは何もない。実に柔らかな表情を見るに、1位となろうがそうでなかろうが、腹を括って明日は逃げるだけ、という心境と見えた。

 1位争いが決着したのは11R。入海馨が2着に入り、これで得点率で上條と並んだ。しかも着順がすべて同じだったのだが、最高タイムは入海が上。そう、逆転で得点率トップは入海!
 これはおそらく選手の多くも把握していた。2番手が確実となった時点で宮之原輝紀が「入海さんだ」と口にしていたし、吉田裕平も「入海さんですか?」とこちらに確認してきている。入海が2着ならトップ、3着以下なら上條、というのはピットでの共通認識のようだった。
 入海も認識していたようだ。陸に上がると、同期の岡部大輝がニコニコ顔で歩み寄って、声をかけている。入海も笑顔で二度三度とうなずいて、岡部と笑い合った。これはトップ通過したのだとわかっているアクションである。めぐってきた大チャンスを生かすことができるか、まずは明日の準優で油断なく勝負したい。 

 ボーダー争いはなにしろ熾烈であり、どのあたりで落ち着くかはなかなか見えなかった。9Rは畑田汰一が逃げ切って、これで得点率6・00だから問題なく予選突破となりそうだった。選手たちはおおよそ6点を目安に走っているので、1号艇できっちり勝てたことも含めて、安堵の思いはあっただろう。

 2着の大山千広、3着の宮之原輝紀が微妙だった。これでふたりとも得点率5・83で並んだのだが、その瞬間にどちらが上なのかをふたりが判断できたとは思えない。宮之原は前半のピットで、「今日は2等獲り頑張ります」と言っていて(2着なら6・17だった)、3着5・83では届かないと思っていたフシがある(だから少し落胆しているように見えた)。しかし、実は上位着順の差で宮之原が16位、大山は19位という順位になったのである。大山はそれを知っていたかどうか(あるいはやはり1着勝負と思っていたか)、やや暗い表情のレース後。レースに集中している選手たちにとって、このあたりの把握はなかなか難しいものだろう。

 ただ、レース後にそれを知ったのだろうか。10R、5コースから栗城匠がまくり差しで2番手に浮上。その瞬間、水面際のベンチで観戦していた大山は「ワーッ!」と悲鳴をあげている。栗城は2着で6・00。大山は自分を超えられるのを自覚していたのかもしれない。

 栗城のこの2着はお見事の一語。今節は着はそれなりにまとまっていたものの、機力的にはどちらかといえば劣勢だった。今節、最も忙しそうにしていたひとりが栗城である。5コースから素晴らしい航跡での2番手は、これぞ勝負駆け! そして、勝負駆け成功だというのに、とことん淡々としていた栗城はこれぞ笑わない男の真骨頂!

 で、実は大山は順位を上げているのである。圏内にいた井本昌也と定松勇樹が大敗で19位以下に転落したのだ。これで大山が18位に。11Rは下位から圏内に浮上できる選手がおらず、12Rの松山将吾次第という立場になったわけである。井本は地元ヤングダービーでの予選落ちが決まって、やはり冴えない表情。定松は前走の1着で望みをつなぎながら、まさに暗転。隠そうともせずに悔しさをあらわにして、顔を歪めるのであった。

 さて、12R。ナイタービッグの4日目で、12Rに勝負が決したことがこれまであっただろうか。あったかもしれないが、レアケースには違いない。松山将吾が2着で勝負駆け成功。これで大山は19位へと転落したのだった。松山はおそらく状況を把握していたはずだが、レース後は特に表情を変えることなく控室へと戻っている。もちろん内心は、安堵の思いもあったはずだ。
 このとき、大山はすでに帰宿したあと。女子選手は全員が宿舎に戻っていて、もしかしたら一緒にテレビ観戦していたかも。大山は女子の最後の砦だった。しかし次点に泣くことに。宿舎には女子選手たちの溜息が響いただろうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)