BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――ほぼ順当

●9R

 ピットに上がると、新開航がまっすぐ小池修平のもとに向かって、ペコリと頭を下げた。新開は、ピット離れでやや後手を踏んだ。小池はじわっと締める気配を見せたが、インを奪われるわけにはいかないと新開は艇をねじ込むような格好で死守。おそらくはその場面を詫びたのだろう。あるいは、バックで舳先を掛けてきた小池をやや締め込んだ場面か。小池の舳先が何度か浮いていたので、そちらの可能性もある。いずれにしても、新開は小池に迷惑をかけたのでは、と考えた。
 そのうえで新開は敗れたわけだから、これは悔しい。やれることはやった、とは言えるかもしれないが、頭を下げるような展開で勝ち切れなかったのは、小池との足の差を含めて、痛恨であろう。1号艇だからなおさらだ。これをもとに、外枠となる優勝戦でどう手を加えてくるのか。

 新開に頭を下げられて、小池修平はニッコリと笑って返している。もちろんすべてレースの綾なのだから、気にするはずもないし、しかも小池は見事に勝利。むしろこれは、完勝なのだから、小池としては会心の一戦となったことだろう。
 今日はピストンリングを交換しての勝負だったが、これが奏功したそうだ。そして、明日の天候次第だと断わったうえで、さらに新品リングへの交換も考えているという(今日は中古リングへの交換)。かなりいい足だと見えたのだが、小池はさらに上を狙っているのだ。その意気が実に気持ちいい。上限を決めずに戦う姿勢。それはニアイコールで、絶対に優勝するのだ、という意欲でもある。会見ではわりと物静かに淡々と語った小池だったが、胸の内は熱い。センター枠でもかなり怖い存在と見たがどうか。

●10R

 仲谷颯仁が前付けに動き、しかし誰も譲らずに枠なりオールスロー。全体的に深い進入になったが、上條暢嵩が動じずに逃げ切った。後輩である井上忠政のまくりを受け止めての完勝劇。このメンバーのなかでは文句なしで、最も多くの修羅場をくぐってきた男である。進入のもつれなどまるで意に介さないだけの経験があるし、技量も上位。堂々たる逃げ切りであった。
 だから、なのかどうか、レース後の上條は、惜しくも優出を逃した井上忠政を気遣う姿が目に付くのだった。ワンツー決着もあるかというなか、井上は2マークでの競り合いでキャビって後退。その部分について説明する井上に、上條は残念そうな表情で慰めるようなそぶりを見せたのだった。このたたずまいもまた、さすがキャリアの違い、という気がした。
 上條は今節最年長であるとともに、今年でヤングダービー卒業。「この大会は本当にいろいろな思い出がある」と会見で口にしている。しかし、思い出はまだ終わりではない。最高の思い出作りが明日、残されている。その最高の思い出を掴み、究極の笑顔でこの舞台を去りたいところだ。

 2着は関浩哉だが、2マークでの競り合いの部分がレース後、審議となっている。不良航法をとるかとらざるか。僕個人の見方では、井上がキャビったことで詰まったことが原因の接触、だと思うのだが、今年のビッグは接触の局面に厳しいジャッジを下す傾向にある。それを自覚していたのか、レース後の関は難しい表情。それが着替えを終えた後も続いていて、思うところのある2着となってしまったようだ。その思いを晴らすのは、明日の結果だ。もちろん、最高の。

 このレース、惜しかったのは原田才一郎! 1マークを回ってバック、2番手は十分にありそうな流れのなか、2マークでのもつれで後退してしまった。たまたま水面際のベンチで観戦していた122期勢が、バックを走る原田を見ながら盛り上がること! ある! 行け! 外! とまるでファンのような声援をベンチから送っていたのだ。しかし2マークで後退した瞬間、それらは溜め息に変わる。原田自身も相当に悔しかったようで、レース直後は顔を引きつらせて痛みに耐えている様子だった。F2でここまで戦ったのだから立派だったぞ!

●11R

 高橋竜矢にとっては、悔やんでも悔やみきれないレースとなってしまった。2番手を走っていたはずが、2周1マークで松山将吾に捌かれた。ホームで松山が切り返しの気配を見せ、高橋はこれをいったん押さえ込んで、外にハンドルを切り直した瞬間、松山は落ち着いて内に切り込んだ。これが決定的な瞬間だった。松山にとっては勝ち筋を作った、そして高橋にとっては敗着であった。レース後、同期の121期勢が自然と高橋の周囲に集まった。誰もが悔しそうにしているなか、高橋の顔つきもだんだんと険しさが増していった。控室でリプレイを見れば、さらにその思いは強くなるだろう。

 松山の逆転はとにかく見事。また、場数の違いでもあるか、松山は4月の津周年で優勝戦1号艇に乗りながら、6着大敗。最大のチャンスを最大の悔恨で終わらせてしまった。松山は会見で言った。「あの敗戦で、そのあと落ち着いてレースできるようになった」。悔しさを糧に、とはよく言うが、松山はそれをしっかりとモノにしたのだ。それが導いた優出、ということか。レース後も会見も、やはり落ち着いて見える松山。6号艇ならなおさら冷静に戦えることだろう。そして、高橋もこの松山の姿に今日の自分を重ね、次の機会に活かしてほしい。

 優勝戦1号艇は入海馨だ! 緊張感もやはりあったのか、レース後の表情には安堵が強かったのが印象的だ。記者会見の第一声も「まだドキドキしてます(笑)」だった。だとするなら、明日はもう一丁、ドキドキが増すことだろう。それでも、レースぶりは落ち着いたもので、しっかりと逃走。緊張はあろうとも、同期もいることだし、今日を乗り切ったことでしっかりとレースに臨めるはずだ。一昨年も優出しているが、準優3着からの繰り上がりだった。今回は堂々たる1号艇。「成長した姿を見せたい」、その言葉を有言実行とするには最高の舞台となった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)