BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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セミファイナルのピットから

 さあ、セミファイナル。9Rはスリットでピットがざわめき立った。チルト2度(江戸川のマックス)に跳ねていた4カド黒柳浩孝が一気に出ていったのだ。ちなみに、5号艇の佐藤大佑もチルト2度、6号艇・山下流心がチルト1・5度で、記者席では直前情報が出た瞬間にもざわめきが起こっております。とにかく、黒柳が内を叩き切ったのだから、ピットには感嘆の声があがるのも当然。黒柳がファイナル行きの切符を手にしたものと誰もが思った。
 ところが、2マークで差した三嶌誠司が舳先を掛けたものだから、ピットはさらに騒然。黒柳が伸び切る気配も、三嶌も舳先を掛けたまま粘ったから、さらにどよめきが上がる。これは2周1マークでは大競りになりそう……装着場でレースを見ていた選手や関係者は皆、そんな予感を抱いていたのだった。

 果たして三嶌と黒柳が競り合って、その間隙を突いたのがインでまくられていた中澤和志。そこでもう一発どよめきが起こって、同時に激戦を目の当たりにしたことで誰もが少し上気した感じになっていたのだった。この展開、まさしくボートレースの醍醐味のひとつ!

 ピットに戻った黒柳は、1期違いで同じ東海地区の長嶋万記に出迎えられて、ニカッと歯を見せた。いや、見えたのは白いマウスピースだったので、正直それが笑顔だったのか悔しい表情だったのかはよくわからなかった。それでも、この面白すぎる展開を作ったのは黒柳に間違いない。その敢闘に拍手を送ろう。

 10Rは田村隆信が逃げ切り。真っ先に堤防から駆け下りてきた田村は、出迎えた平山智加に向かって真っすぐ拳を突き上げた。その後、すれ違う人すれ違う人、サムズアップを繰り返す。いやあ、ゴキゲン! ここまで率直に喜びをあらわにするのは珍しいわけで、これがファン感謝3Daysの空気ならではということだろう。なお、田村は「スーパーあみだマシーン」のお披露目だった19年BBCトーナメントで優出し、1号艇をゲットしている。というわけで、会見では「あみだマシーン? 得意ですよ」とキッパリ。あみだマシーンに得意不得意があるとは(笑)。やっぱりゴキゲンなのだ。

 11Rは石渡鉄兵が3コースまくり差し一閃! 1マーク手前で初動を切った瞬間、ピットでは「さっすが!」と声があがっている。その位置取りやハンドル捌きを見ただけで、「これは刺さった!」と誰もが察知したのだ。案の定、バックに出た途端にイン酒見峻介のふところに取りつき、そのまま先頭へ。これぞ江戸川鉄兵の妙技、と言うべきまくり差しであった。
 堤防を降りてきた石渡は、頬を膨らませて大きく息を吐いた。一般戦とはいえ、全国的な注目が集まるレース。ついに江戸川で開催された“ビッグ”で、江戸川鉄兵としてはやはり優出はノルマだっただろう。枠番が抽選で決まる超短期決戦、非常に難しい戦いながら、セミファイナルをしっかり1着で勝ち上がれたことは、ひとつ肩の荷が下りた瞬間だった、ということになる。吐き出したものはまさしく安堵。そのありさまは、まるで仕事人のようだった。

 12Rは、残念なことに1号艇の土性雅也がフライング。全国に名を売る大チャンス。一方で、注目度の高い大会のメインカードの1号艇。気合も入っただろうし、プレッシャーもあっただろう。それが、気の逸りを生んでしまったか。レース後、各選手に頭を下げて回る姿は、少々痛々しくもあった。

 これで先頭に浮上したのは平尾崇典だ。そうだった、この人は江戸川が得意なんだった。差してバック好位に取りついた瞬間、それを思い出したのだった。なにしろ、この後にはすぐにファイナルの枠番抽選が控えている。ということで、平尾は競走会の職員の方に指示されながら、とにかく忙しそうに動く必要があった。だから、感情を表に出すようなところはいっさいなし。気づいたら、エンジン吊り等を仲間に任せて、ピットから姿が消えていたのであった。まあ、フライングがあったレースだから、露骨に歓喜をあらわすというわけにもいかなかっただろうけど。

 ところで、セミファイナル2着から1名、5号艇でファイナルに進むことになったのは、12R2着の上野真之介である。過去8回、こんなことがあっただろうか。2着は全員がトーナメント2着。2年前までだったら4名で抽選をするという事態なのである。まさかこんなことになるとは思わないから、報道陣もややアタフタ。というのも、まず9Rでは三嶌誠司が2着で、10Rで赤坂俊輔が2着となった瞬間、どちらが選考順位が上なのか、把握している人が少なかったのだ。ワタシもそうです(汗)。どうやら三嶌のほうが上ということが判明したのも束の間、11Rで森高一真が2着で「どっちが上なの!?」とみなが右往左往。控室で実施要項を確認したJLCのスタッフが「三嶌さんです」と伝えてきて、ようやく皆、事態を把握したのだった。

 そこで学習した我々は、12Rでトーナメント2着組の上野と中村かなえの選考順位に思いを馳せる。これは上野がA1、中村がA2だから文句なしで上野が上。だから、上野が2着ならファイナル行き、と誰もが把握したという次第である。もちろん、トーナメント1着だった浜田亜理沙か湯川浩司が1着なら、一気に2着組をまくって優出、ということも。そしたら、ほんとに上野が2着になって、今度はピットにいた全員が上野の動向を瞬時に追うことになるという。

 選手たち自身もおおよそ事態は把握していたはずで、森高一真は特に気にしている様子はなかった。それよりも、畠山が3-6-1を獲ったと聞いて喜んでいたほどである。この男、自分が舟券に貢献をして、それを獲ったと聞かされるのが何よりも嬉しいという、ボートレーサーの鏡のような男なのだ。まあ、1着ならば文句なしのファイナル行きなのだから、それをかなえられなかった時点で自己責任と割り切っているところもあるだろう。

 さて、ファイナルの1~4枠の抽選は、12R終了後にイベントホールで行なわれている。大急ぎでピットから向かったら、すでに壇上には平尾も含め4人が着席していた。平尾、本当に速攻でこちらに合流したというわけだ。その平尾が、あみだマシーンの結果、1号艇ゲット! やった!……と思ったら、平尾はクスリともせず、むしろつまらなさそうにも見える淡々とした表情のまま。司会の荻野滋夫さんが「嬉しい……でしょ?」とぼそり声をかけると、平尾は小さく首を振る始末。その後の写真撮影タイムでもなんだか投げやりにも見える態度で、そんな平尾の様子があまりに可笑しく、会場には笑いが起こっていたのであった。平尾、こんなキャラでしたっけ? まあ、Fレースでの恵まれということもあって、はしゃぐわけにはいかないと自重していたのかもしれない……と言っておこう(笑)。

 一方、盛り上げたのは田村隆信。自分がチョイスした札が結果的に1号艇だったことで、それをしっかり口に出したり、4号艇に行きついたというのにガッツポーズを見せたり。うん、あみだマシーンの儀式のことをようわかってます(笑)。さすが初代あみだマシーン1号艇ゲット男! そうか、あみだマシーンが得意と言っていたのは、このことでしたか(笑9.

 石渡鉄兵も中澤和志もわりとおとなしめのキャラということもあって、比較的淡々と進んだ枠番抽選会。それでもやっぱり、あみだマシーンの儀、ほんまにおもろい!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)