BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――10年間の雌伏を超えて!

 9年7カ月ぶりのSG制覇。いや、ざっくり10年でいいだろう。あの電撃6コース差しから、そんなにも年月が経ってしまった。2014年グランプリ優勝。SG初制覇が最高峰の舞台で、大外からのセンセーショナルな勝利で、それは茅原悠紀のその後の席巻を約束しているもののように思われた。その賞金でランボルギーニを買った、なんていう話題もありましたね。あれも茅原が時代を築くであろう、その象徴に見えたものだ。

 まさかそれから10年も、タイトルに手が届かないとは。
 レース後、茅原は涙を見せた。「10年も獲れなかったから」、そうも言った。茅原自身、そんな10年間を送ろうとは思ってもいなかったのだろう。ということは、苦しい10年間だった。ピットで見ている限り、そういった素振りは微塵も見せなかったと思うのだが、結果が出ない日々は茅原を思い悩ませていたということになる。
 気合は入っているように見受けられた、なんてことを今日の最初のピット記事に書いている。10年間のブランクを埋めようとして気合が入った、なんて簡単なものではないだろう。また、気合が入っていたから勝てた、なんていう単純なものではないのも間違いない。しかし、獲れなかった日々だったり、昨年と比べればやや順調さに欠いていた上半期だったり、なかなか思い描いたようにはいかなかったなかで、巡ってきたチャンスをもぎ取りにいくという闘志は高まっていたに違いない。

 そしてそれは、チルトを1度に跳ね、伸びを活かして勝負するという、ひとつの覚悟につながった。4カドからまくりで攻めたレースぶりを見ればわかるように、一撃で決めるのだと腹を据えたのだ。それは明らかに、勝利への渇望。あるいは勝利しか考えられない。それは勝負師として当たり前のようでいて、実はなかなか辿り着けない境地だったりする。茅原は腹を括って、そこに辿り着いた。それが奏功した。そういうことだろう。
 実際は、渾身のまくり自体は超抜の出足を誇った山口剛に受け止められている。茅原に連動した椎名豊が2マークで先マイを仕掛け、それを山口が交わした展開を茅原は突いている。だから、決まり手は抜き。しかし、それを取り沙汰するのはあまり意味がない。結果的に茅原に展開をもたらした椎名も、そもそもは茅原が展開を作ったからこそその場所にいられたのだ。伸びてまくる、そう心に決め、それを遂行した茅原の完勝。そう評価していいはずである。

 注目は、10年間の雌伏(と言っても記念は獲っているし、グランプリにも出場しているし、昨年はSG年間優出記録を作っているが)を経て、ついに2個目の勲章を手にしたことが、導火線に火をつけたのかどうかだ。これを機に、SGVを量産するのか。そこまでは言わなくとも、タイトルを積み重ねていくのか。まさかまた10年……ということだってありうるわけだが、期待するのはもちろん、10年前に頭に描いた、何度も表彰台の頂点に立つ姿である。そして、2度目の黄金のヘルメットも楽しみにしたい。そのときはまたランボルギーニ……じゃなくてもいいけど(笑)、ボートレースファンに大きな大きな夢を見せてほしいのである。

 それにしても、山口剛はまたもや悔恨を味わうことになってしまった。14年4カ月のブランクは埋められなかった。出足、回り足はやっぱり超抜だったと思う。しかしそれでも、山口に勝利の女神は微笑んでくれなかった。おそらくは、山口も茅原と同じような苦悩を感じてきたはずだ。それも茅原より長く。それなのに、山口はその期間を延ばさなくてはならなくなってしまった。無念であろう。
 戻ってきた山口の表情は硬かった。敗戦後には苦笑いを浮かべ、悔しさを紛らすようなシーンもよく見かける山口だが、さすがにそんな心境にはなれなかっただろう。顔を歪めていたわけではない。悔恨を吠えたわけでもない。ただただ硬い表情で、静かに一連の作業を進めるだけ。それがかえって、山口の暗澹をあらわしているように感じられた。茅原のように胸につかえたものを思い切り吐き出せる日はいつになるのか。それができるだけ近い将来であることを願わずにはいられない、そんな哀しいレース後でもあった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)