BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――1号艇快勝

●10R

 ①-②の順当決着。もっとも2番手は接戦になって、最内から萩原秀人がアタックしたが、桐生順平が巧みに差して浮上している。笠原亮と並んで見ていたのだが、笠原の後輩である長嶋万記にもチャンスがある展開、そこをしっかり捌く桐生に、お互い「うまーい」と声が揃ったのだった。
 桐生は攻めた山口達也を受け止めるような格好になってふところを開け、それが内から萩原が突っ込む余地を作ったともいえるのだが、そんなわけで桐生はまず山口のもとに言ってペコリ。山口は地元準優をシンガリ負けで悔しさも大きいはずだが、桐生と顔を見合わせてハハハハと笑うのだった。1マークは二人で競り合うような格好にもなっていたから、真っ向勝負した相手とのノーサイドの合図だ。

 長嶋万記も5着ではあったが、表情は決して暗くなかった。2番手争いに加わり、ということは優出も視野に入る瞬間があったのだから、多少なりとも手応えは残ったはず。これまで唯一のSG準優だった17年クラシックも4号艇で、成すすべなく大敗。それと比べれば、今回はきっちりと戦ってみせたのだから、進歩も感じ取れたのではなかったか。ナイスファイトである。

 勝ったのは磯部誠。6日制のSGでは先のグラチャンが初優出。多くのSG準優で苦杯を舐めてきた男が、そのグラチャンで一本獲ったら、次のSGでもあっさり優出である。あっさりと言うと失礼だが、しかしコンマ19の6番手スタートからしっかり先マイを決めて、危なげなく逃げたのだから、タイトルひとつが一気に堰を切ったということだろう。それはある意味、貫禄、でもある。実際、粛々とピットに戻る様は、まるで胸を張って勝利を誇示するかのように見えたのであった。いやはや、この男、SGを獲ってまた大きく成長したということだ。

●11R

 池田浩二、テンションMAX! たしかに5コースからのまくり差しは、彼らしい豪快かつ鋭敏かつ緻密なターンが炸裂したものだった。これぞ池田浩二、そんなまくり差しだ。ただ、2着である。もちろん2着で優出だから、嬉しいのはわかる。しかし、まるで優勝して帰って来たような、渾身の力を込めたガッツポーズをしますかね(笑)。それを見て、磯部や仲のいい西山貴浩がゲラゲラ笑っていたから、彼らに向けたパフォーマンスだった? 陸に上がると、島村隆幸とハグ。いや、ハグではないな。池田のほうから島村を強く抱きしめ、何度も上下に揺すり、島村はなされるがまま。これもこのところなぜか仲良しの島村とのコミュニケーションだったかも。

 今朝、池田は本体を割っていたと前半記事に記した。しかしながら、準優には部品交換なしで登場。それでも、あの本体整備にはおそらく意味があった。会見では「ただ割っただけ」と言っていたが、それでも池田の勝負手であるまくり差しを突き刺せる仕上がりにはなっていたのだ。そうした上向いた気配もまた池田の気分をアゲたか。その後も中島孝平とゴキゲンに言葉を交わしたり、勝った茅原悠紀とはしゃいだり、レース後の池田浩二は最高にお茶目でした!

 勝ったのは茅原悠紀。地元SGで優出を果たした。やはりまずは安堵の思いが強いわけだが、しかしかなりの手応えを感じているかのように、ピットでヘルメットをとると勇ましい笑顔があらわれた。レースぶりにも仕上がりにも一定の満足を得られているようだ。
 記者会見での言葉もとにかく力強い。ポジティブな点についてもネガティブな点についてもハッキリとした口調で語り、つまりすべてを受け入れて全力を尽くすのみと、腹を括っているという印象だ。地元SGだからといって気負いすぎず、一方で地元のエースである意識を確固として持ち、また同時にグランプリをも見晴るかす。メンタルは仕上がった、そう言っていいはずだ。優勝戦はおそらく自然体で戦う。ただ、その自然体はかなりレベルが高い自然体である。

●12R

 出口で後続を一気にぶっちぎる、馬場貴也の圧勝。対して2番手争いはアツかった。まず濱野谷憲吾。1マーク差してバックは岡崎恭裕と並走。内にいる濱野谷のほうが有利な展開だが、2マークで先行する馬場の引き波をもろになぞって流れた。惜しい! レース後、濱野谷は石渡鉄兵にヘルメットをかぶったまま何事かをささやいた。途端に石渡が顔をしかめた。何か愚痴ったんだろうなあ。気持ちはわかる。

 2マークで差したのは岡崎恭裕。後続とはやや差があって安全圏かと思われたが、篠崎仁志が2周1マークで内から先マイ敢行。岡崎はこれを寸前で待って差し、その分、握った羽野直也にバックで追いつかれ、抜かれた。仁義なき福岡対決! レース後の岡崎は憮然とした表情。篠崎が内から来た時に握って交わす手もあったわけで、そのあたりの判断は難しかった。そんな競り合いの末に逆転を浴び、レース後に機嫌よく過ごせるわけがない。勝負師の顔、だった。

 結果、2着は羽野直也。大逆転の優出ではあるが、羽野はこうしたときに感情を素直にあらわすタイプではない。困ったような顔、というとおかしいかもしれないが、ちょっと眉が垂れたような表情で、顔色を変えることなく、粛々とふるまう。今年はGⅠ優勝戦FのペナルティでGⅠとGⅡには出られない分、SGの優出はかなりデカいはずなのに、それに対して喜びを特にあらわすことがない、それが羽野なのである。羽野キュンマニアの方はそんなところもかわいいんでしょうなあ。

 すでに書いたが、馬場貴也は圧勝。今日と同じターンを準優でできれば、誰も影さえ踏めないのではないか、という勝ちっぷりだった。馬場自身、会見で、ミスなく今日のようなレースができればかなり可能性は高い、と言及している。つまり、馬場にとってはもはや自分との闘いとなってくるわけだが、昨年のMVPがこの状況に震えることがあるとは思えない。気になるところがあるとするなら、思ったよりも高揚感が見えないことだが、それもMVPを受賞したことで生じた責任感がなすことだとするなら、これが馬場貴也の自然な振る舞いということでもあろう。死角はかなり少ない、と見たがどうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)