BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

同期の桜

12R優勝戦
①関 浩哉(群馬・115期) 02
②畑田汰一(埼玉・122期)    09
③川原祐明(香川・115期)   11
④井上忠政(大阪・119期)   14
⑤佐々木翔斗(大阪・118期)18
⑥澤田尚也(滋賀・121期)   19

 地元の若きエースにしてシリーズリーダーの関が勝った。
 ただ、誰もが一度は想像したであろう圧倒的なイン逃げではなかった。この大本命の肝胆を寒からしめたのは、同じ115期の川原! 2コースの畑田が差しに構えた瞬間、ツケマイ気味に叩き潰すような強烈なまくり差しを突き刺した。

 バック直線は同期ふたりの一騎討ち。1マークを先制した関もしっかり舟が返って、外から半艇身ほど覗いて見せた。が、内からマウントを取った川原も、舳先をねじ込んだまま突き進む。スリット裏の伸び足はほとんど一緒。
 3-1決着か!?

 多くのファンはそう思っただろう。ボートレースは内からマウントを取った方が圧倒的に有利。2マークの手前まで関の面倒を見た川原は、ようよう舳先を内に傾けた。その初動が早すぎたとは思えない。あれ以上の面倒を見たらオーバーランになるし、落とした瞬間にエリート同期の強ツケマイを浴びる可能性も高まる。

 関より先に舳先を傾けてツケマイの脅威を消した川原は、今度は2マークを回る直前にスッとスピードを落とした。関の差し場をできる限り狭くする、細心にして精緻なターン。GI初優出で、よくぞこれだけ落ち着いた緩急の旋回ができたものだ、と思う。さらに、最内から井上が切り返しに構えていたから、差し場はほとんどなくなりつつあった。

 これで勝負あったか。
 思った瞬間、川原が消したはずの狭い間隙に、関が舳先をぶっ込んでいた。おそらく身体が勝手に動いたとは思うが、それはターンセンスやパワー差しや走り慣れた地元水面のアドバンテージだけでは語れない、意地と気合の差しハンドルだった気がしてならない。

 たとえば、井上が優勝だけを意識してもう少し強めに握っていたら、ほぼ間違いなく関と接触していたはずだ。私の目には、差しに構える関が見えた瞬間、井上はスッと速度を緩めたように見えた。地元のエースの気迫が、ちょうど1艇が通り抜けるだけの隙間を生み出した気がしてならない。

 同期の一騎討ちはまだ終わらない。今度は内が関で、外が川原。ホーム水面での伸び足もほぼ一緒。マウントを取った関が2周1マークの手前まで同期の面倒を見て、直前で舳先をターンマークに寄せ、スッとスピードを緩めて同期の差し場を消してから握り直した。
 一方の川原は、再び井上が内から切り返しで迫る直前に、わずかな隙間に鋭角な差しハンドルを突き入れた。2マークの関より隙間は広めではあったが、機敏にして的確な差し。それは本当に、2マークをほぼ正確に焼き直したような光景だった。入れ替わった選手を除いては。

 また差しが届いた!?
 一瞬だけそう見えたが、それは桐生特有のテレビカメラの悪戯で、別のカメラに移った瞬間に関の圧倒的優位が見て取れた。2マークの両者よりも差が開いたのは、関のターンセンスなのかパワー勝ちなのか走り慣れた地元水面の利だったのか、私には分からない。分からないが、ターン出口でシュッと抜け出した分だけ、関の出足がわずかに強かったのではないだろうか。

 2周2マークを関がガッチリ先取りして、この大会の勝者が確定した。デッドヒートの末に同期を競り落とした関と、優勝に手が届く位置から同期に逆転された川原と。やまと学校で何周も何十周も繰り返したであろう同期の交差旋回が、10年後の最高峰の舞台で再び濃密に繰り広げられた。それは、ふたりにとって誇らしい交差旋回であり、残酷な交差旋回でもあり、何十年も先まで思い出に残る交差旋回だった、と思う。(photos/中尾、text/畠山)