さみーっ! 菊地孝平の叫びがピットに響いた。2Rを走った深谷知博のボートを整備室前に運んだときだ。いやあ、本当に寒いんです、今日は。気温もさることながら、風がピットに吹き込んで、体感温度は相当に低くなっている。そう、今日は1Rから安定板装着。そりゃあ、菊地だって叫ぼうってもんなのであります。
ただ、これぞグランプリ、という感覚もある。最近は温暖化の影響か、そこまで寒さを感じない日もあったりするのだが、グランプリのピットはとにかく寒い。取材を始めた20年ほど前には雪が積もったこともあった。暖かいほうが取材も楽なのはたしかでも、この寒さがまたグランプリの緊張感をさらに感じさせてくれて、かえって気持ちはホットになっていったりするのであります。
なにしろ、今日からトライアル2nd! 今年最高の12レーサーがいよいよ、黄金のヘルメットと1億1000万めがけて最高の戦いを繰り広げるのである。1stが行なわれた2日間もヒリヒリしたものはあったけれども、今日は間違いなくさらに高まっている。大一番感が増しているのである。それを最も感じさせたのは馬場貴也。1号艇で臨む2nd初戦、早くも気合と緊張感はマックスに近くなっているように見える、そんな目つきなのである。なにしろ昨年は同じ1号艇で妨害失格となり早々に優勝戦線から大きく後退している。絶対に二の轍は踏めない。そんな思いがありありと伝わってくるのだ。ちなみに、本体整備に取り掛かってもいる。万全で臨もうという姿勢がまた、気合を伝えてくれる。
もう一人の1号艇、毒島誠はペラ調整に没頭だ。3R発売中、ペラ室には3人しか選手がいないという、今節では珍しい瞬間があったのだが、そのうちの1人が毒島。彼が早い時間帯からペラ調整所に陣取るのはまさしくルーティンではあるから、それ自体はトライアル感を漂わせるものというわけではないが、それぞれがペラ室以外での作業を進めるなか、ペラ室に根を生やしたかのようにこもっているのは、どこか特別感を覚えなくもない。
で、その3人のうちのもう1人が峰竜太なのであった(残る1人は三浦永理でした)。峰はレースのない2日間、さらに前検日と何度も本体を割った。2nd組がレースのない初日と2日目で本体整備をするのは珍しいことではないが、こんなに何度も行なった選手を今まで見た記憶がない。そんな峰が、今日はペラ調整に集中している。明らかに次の段階、あるいはレース参戦モードに突入したということだろう。それがトライアル2ndの開戦という雰囲気をさらに高めているように感じたりする。
1stからの勝ち上がり組では、平本真之が本体整備。昨日はピット離れで遅れ、また上位6基を手にしているベスト6と対峙するためにも、さらなる上積み、あるいは気になる点の改善が必要なのは間違いない。決して悲壮感漂う雰囲気ではなく、ネガティブな心持ちにはなっていない様子なのはプラス材料に見えた。平本は昨年、1st発進組で唯一、優勝戦に駒を進めている。1stからの戦い方、調整の仕方はよくわかっているだろう。
で、上條暢嵩が今日もプロペラをモーターに装着したままの序盤、なのである。つまり1stを戦った初日から、過ごし方が変わっていないのだ。2ndに進んだからといって、特別なことをするわけではない。それはかえってポジティブな要素ではないかと思う。もちろん、暗くなるにつれてピッチは上がっていくはずで、そうして勝ち抜いた1stでのやり方を今日もしっかり踏んでいくことになるだろう。
シリーズ。1stで敗退した選手は、今日からこちらの優勝を目指す。気落ちしているかというと、ひとまずそう感じさせる選手は見当たらない。複雑な感情がないとは思わないが、戦いがあればそこに全力を尽くすのは同じこと。調整に取り組む姿勢も変わっていない。宮地元輝も昨日までと同様、ペラ調整に徹底的に取り組んでいる。3Rは結果にはつながらなかったが、このあとも10Rのシリーズ復活戦に向けて上積みをはかっていくだろう。
2Rは佐藤翼が逃げ切った。1stは2走してともに着外。不本意なグランプリ初陣だった。やはりレースに向かう姿勢は変わらないが、それでも少し緊張感からは解放されたようにも見えたりする。逃げ切ったあとは本体整備。「なんとなくペラが合ってきた気がする」とそちらに手応えを掴んだからこそ、本体としっかり向き合う段階に進めたようだ。まあ、そう考えるとやっぱりトライアル1stは厳しい戦い。通常の節なら、2日目を終えたということは予選が半分終わった時点であり、そこでペラ調整に当たりが出たのなら、ここからは巻き返しをはかるタイミングである。しかし、1stは結果が出てしまっているのだ。佐藤もこれを経験したことで、来年は6位以内で、と思いを新たにしたことだろう。そして、今節はシリーズ優勝を目指すのみ。本体整備で上積みがあれば、SG初優勝の可能性も充分だ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)