最も動きが慌ただしいのは、やはりトライアル1st組だ。明日明後日、たった2戦で運命が決まる。2ndに進むか、シリーズに回るのか。シリーズも立派なSGであるのに間違いはないが、しかしグランプリ出場という栄誉をたった2日で剥奪されてしまうのはどうしたって屈辱だ。単なる“予選落ち”ではない。だから、悠長に構えている場合ではないのである。
さっそく本体を割る選手が出るのも当然。確認できたところでは、深谷知博、平本真之、今垣光太郎。深谷はギリギリまで整備を続けており、今日の感触がいまひとつであることがうかがえる。明日12Rだから一日たっぷり使える、という発想にはまったくなっていないのは明らかで、なんとか本体を整備して、明日はプロペラ調整にも時間を費やしたいわけだ。
プロペラをかなり強く叩き変えていたのは中島孝平だ。伸びたそうだ。しかし出足がどうにもこうにも、という感じで、ピット離れも前節などは悪かったという。なにしろ2節前に藤山翔大が乗っていたモーター。中島とはまるでスタイルが違う。これが、予選4日制であるなら、明日まずは1走乗ってみて、という方向性もあるだろう。そこがトライアル1stの厳しさ。悔いなく戦うためには、自分なりの調整をがっちり行なわねばいられないのである。
そうしてみると、比較的余裕があるように見えた桐生順平や山口剛らは感触が良かった部類に入るということだろう。もちろん、航走検査後にはプロペラ調整を行なっている。ただ、ここまで名前をあげた面々に比べると、通勤着に着替えるのが早かった。つまり、わりと早めに作業を切り上げることができたということだ。
山口は会見で、「今年の1月、誰が僕がここにいると思ってました?」と笑った。たしかに、夏までSGとGⅠから遠ざからなければならなかったのだから、グランプリ出場は相当に困難だというのが共通認識だっただろう。それは山口自身も同じだった。つまり、ここにいることが僥倖だと言っているわけだ。そのうえ、今日の手応えが悪くなかったのであるなら、かなり自然体で戦うことができるということになるだろう。もちろん、それがプラスに働くとは限らないのがグランプリという舞台なのではあるが。
では、明日明後日はレースがないトライアル2nd組はゆったりと過ごしているかといえば、まったくそんなことはないのである。三島敬一郎がS評価をつけた66号機を引いた茅原悠紀だって、けっこう遅い時間までプロペラ調整を行なっていた。もちろん明日明後日もじっくり時間をかけての調整を行なうだろうが、それで充分とは少しも思っていないかのようなのだ。
賞金ランク1位で乗り込んできた峰竜太も同様。かなり長い時間、プロペラを叩く姿があった。峰が作業を切り上げて、通勤着に着替えたのは1便バス出発ギリギリである。GP組は1便で帰るよう指示があったようなのだが、帰宿が完全に自由だったとしたら、峰はまだまだ残ってペラと向き合っていたのではないか、と思わせるほど、没頭しているのであった。
88号機を引きたいと言って、本当に引いてしまった石野貴之も、きっちりと時間を使っている。ただそれでも、やはり2nd組のなかでは早めの切り上げ。すれ違いざまに「本当に引いちゃいましたね」と声をかけると、石野はニカッと笑った。「なんか引きそうだと思ってたんですよ」。マジか! もう優勝じゃん! というのはさすがに早計に過ぎるというものだが、早くも流れを掴んでいるのは確かである。だから気分上々といった雰囲気なのであるが、それでも決して緩めることなく、前検日から調整に勤しんだ。ということは、やっぱりアドバンテージを得ているということなんだろうか……?
シリーズ組では、宮地元輝が本体を割っていた。こちらはもちろん通常のSG通り4日間の予選を戦うわけだが、だからこそ、この段階で本体を割るということは、今日の感触が良くなかったということか。なにしろ、3日目には上位7~18基のモーターを手に1st組が合流するのだから、予選4日といってもこちらも悠長に構えていられない。連覇を狙う身としてはなおさらだろう。
というわけで、カテゴリが3つあるという特殊な舞台であるのに、一様に慌ただしさが目立つピットなのであった。そう、これがグランプリ。ピットに身を置きながら改めて、今年もこの時がやって来たんだなあと痛感したという次第である。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)