BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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児島ダービー優勝戦 私的回顧

運も実力、実力も運。

12R優勝戦
①毒島 誠(群馬)10
②馬場貴也(滋賀)17
③石野貴之(大阪)19
④松田祐季(福井)13
⑤前田将太(福岡)11
⑥木下翔太(大阪)13

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 毒島が、また勝った。
 SG優勝戦のスタートとしては絶品のコンマ10。2・3コースの壁がやや頼りないスリット隊形ではあったが、単身そこから出て行く出て行く! 1マーク手前で外の馬場をキッチリ1艇身突き放し、影をも踏ませぬ高速インモンキーでバック突き抜けた。もちろん、あとは激しい2着争いを尻目に一人旅。ブッチギリの走破タイムは、昨日の自身の節間レコードを更新する1分46秒7(2位は11R田村の46秒8。返す返すも両雄の直接対決が観たかった)。毒島の今日のレースに関しては、あまりにも強すぎてこれ以上書くべき言葉が見当たらない。

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 毒島の強さを補填するデータを記しておこう。もはや「大村メモリアルからのSG連覇」程度では驚かないが、2017年のチャレンジカップからわずか2年11カ月でSG5V!! これは凄い記録だと思う。しかも今節は児島ダービーということで、巷で囁かれていた「ナイターSGは無敵だが昼間のSGを勝っていない」やら本人も口にした「ダービーは弱い」(過去6シリーズすべて予選落ち)やらのジンクスをいっぺんに払拭した。そりゃそうだ。これだけ強い男がダービーだけ弱いとか、ナイターしか勝てないとか、単なる偶然の積み重ねに決まっている。

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 で、これだけ頻繁にSGを獲ってるから当欄で書くべきことも枯渇しそうだが、今節の毒島ほど「この男、マジでヤバイくらい強い!」と感じたシリーズはなかった。まずは整備力。引き当てた48号機は2連率37%ながら近況はダダ下がり(ここ3カ月は29%)で、前検でもまったく目立たなかった。ドリーム戦の6着を見て、「こりゃあかん、SG連覇にはほど遠いな」と思ったものだ。私の勝手な見立ては「あって中堅ど真ん中」。
 そんな落ちこぼれモーターを、大きな部品交換もないまま、5日後には出足も直線足も上位レベルまで跳ね上げてしまったのだ。節間、毒島のコメントにはハッとさせる単語や比喩が紛れ込んでいた。
「初日は乗り心地がいちばん良かったので、それを求めて捜索願を出します」~後に「(探していたものが)帰って来ました(笑)」
「その部分はペラと燃料の調整でなんとかなるとと思います」
 などなど。あるときは、ピットで自分のモーターにぴしゃぴしゃと水をかけて「こうすれば冷えてもっと良くなるかも」などと言っていたとか。それらもろもろが実にユニークかつ独創的な感じがしたのだが、そんな毒島流の調整法が落ちこぼれだったはずの48号機を優等生に育て上げたのだろう。毒島の整備力はかねてから有名だけれど、今節は「単に機械的なあれこれではなく、モーターといろんな会話を重ねながら良い部分と悪い部分を聞き出しているのではないか」などと思った次第だ。

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 それから、2日目の5コースまくり差しのターンには本当に驚かされた(3日目のトピックス参照)。まだモーターが仕上がっていないというのに、本人も「わ、これは凄い!」と自画自賛した超ミラクルターン!! 整備同様、毒島はターン巧者として有名だが、あれほどのエグいターンは過去最高だと思っている。
 そして、あのターンでの1着が今節の大きなターニングポイントであり、毒島を予選3位に導いた原動力だったはずだ。機力的にも展開的にも並みの選手(A1選手であっても)なら1着はおろか大敗の可能性が高い。1着か6着かで予選トップも予選落ちもありえる厳しいSG予選の中で、毒島はミラクルな10点を加算したのだ。

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「(ファイナル1号艇は)運が良かったです。ツいてました」
 今日の優出インタビューで、毒島は照れ臭そうにこう言った。準優で予選1・2位が敗れて転がり込んだポールポジション。先の大村メモリアルも予選トップの峰竜太がフライングを犯しての繰り上がりのような1号艇ではあった。本人が運と言いきるのは当然ではあるが、まさに運も実力。劣勢が予想された低調機を上位レベルまで引き上げ、他の選手には真似できないターンでポイントを積み重ね、誰かしらのミスがあれば常に頂点を狙うポジションに居続ける。そして、そうなる。実力が招いた運だ。

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 1号艇になってからの最後のレースは冒頭で記したとおり。機力もスタートもターンもあまりに完璧で、書くべきことが少ない圧勝だった。それを実現させたのは、毒島誠という男の前検から7日間の質の高い“仕事”。好調時に浮かれることなく、不調時に諦めることなく、スタート事故も起こさず、7日間に渡って質の高いルーティンワークをやり続けてきた結果が、今日の優勝につながった。もっと言うなら、3年足らずでのSG5Vにつながった。
 ターンスピードではあるいは峰竜太が上だが、あれやこれや全部をひっくるめれば毒島が桁違いに強いのではないか。
 ひとりだけが際立って強かった優勝戦の後、そんなことをあれこれ考え続けていた。(photos/シギー中尾、text/畠山)