BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――微笑、苦笑、穏笑

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 前半記事で、「瓜生がいつもと違うように見える」と書いた。11R前、展示待機室に消えていく瓜生正義を見ながら、そんなもん考えすぎだったな、と思わざるをえなかった。なんともスッキリした表情。原田幸哉と交わした笑顔は、まさしく瓜生スマイルだった。もし前半の感覚が正しかったとしても、優勝戦直前になってリラックスした表情を見せられるとは、強すぎる。もはや死角なし。勝負舟券のほかにちょろりと仕込んでいたスケベ穴舟券は紙くず同然だなと思った。 ちなみに、レース前はどの選手も、わりとリラックスしているように見えた。松井繁はカポックを着込んで11Rの出走待機室を覗き込み、馬袋義則(だと思われる)にちょっかいを出していたし、原田幸哉も山崎智也も、後輩らと言葉を交わしながら柔らかな顔になっていた。池田浩二はやけに凛々しい顔をしていて、ちょっと唸らされたが、原田や平本真之と顔を合わせれば頬が緩む。そんななか峰竜太はずっと神妙な表情だったが、それはいつも通りのことだし、平本あたりと冷蔵庫の整理をしているときには、穏やかな表情も見せている。 優勝戦直前、ピットで多く見られたのは、ベスト6たちの笑みであったということだ。

 

 

 

 

 

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レース後もまた、笑みであふれていた。といっても、こちらは苦笑いが多分に含まれている。松井はヘルメットを脱いだ瞬間に苦笑があらわれていたし、田中信一郎にも「くっそ~」とか言いながら、思い切り顔をしかめながらの笑みを見せていた。黙々と悔しがるのではなく、苦笑で思いを表現する。こうした松井はあまり見なかったように記憶しているが、しかし瓜生にあれほどまでに強い勝ち方をされれば、笑うしかないといったところか。 

 

 

 

 

 

 

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池田の場合は、アクションがついた。思い切り空気を蹴飛ばし、腕を前後に振る仕草。「ちっくしょー!」とか「やっちまったいっ!」とか吹き出しをつければ、ぴったりハマるか。もちろんピット離れの失敗に対してであり、また「やっちまったな!」とばかりに笑いながら寄ってくる仲間たちへのパフォーマンスである。上瀧和則選手会長も、まず池田に笑いながら慰めの言葉をかけており、モニターで観戦していた選手たちはきっと「あぁ~」「何やってんだよ~」とため息をついていたのだろう。もちろん、いちばん悔しいのは池田であり、それを仲間に対しては笑いに変えていく茶目っ気も池田らしさなのである。 

 

 

 

 

 

 

 

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原田もやはり苦笑い。カドが転がり込んでくるというツキを活かせなかったあたりを悔やんでいたか。レース前、原田は平本と長く話し込んでおり、別れるときに「ありがと」と背中を2、3度たたいて、どこかに向かっている。遠目には平本にアドバイスや意見を求めているというふうに見えていて、そしてレース後に平本がまず寄り添ったのは原田だった。その平本と言葉を交わしながら、苦笑いが浮かぶ。練りに練った戦略が無に帰したことへの苦笑だったか。 

 

 

 

 

 

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智也は、ピットに帰って来ると、峰のもとに向かった。大声であの2周1マークについて、振り返り合ったのだ。峰は悔しげに苦笑を浮かべ、智也はむしろ楽しそうに微笑んでいた。智也はその後も笑みを浮かべながら一連の作業をこなし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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また峰もモーター返納作業の間は、苦笑交じりの笑みを浮かべていた。ただ、智也は作業を終えて報道陣に囲まれると、やるせない表情になっていたし、峰はピットに戻ってきた直後、露骨に顔をしかめている。もちろん、本音はそちら。しかし、レースが終われば悔しさを胸にたたえながらも、笑みが浮かぶこともある。そこに本音が入り混じることで、笑みは苦笑いになるのだろう。

 

 

勝った瓜生は、もちろん笑顔である。ただ、決して歓喜を爆発するのではなく、ただ静かに笑っているのが瓜生正義だ。我らが御大将を出迎える福岡軍団は喜びをあらわにしているのに、当の瓜生はただ笑っている。上瀧会長が「おめでとう!」と祝福を浴びせても、「あ、ありがとうございます」と淡々。僕には、そういう振る舞い自体がすでに瓜生正義の強さの一部のようにも見えていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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共同会見でも、穏やかに淡々と語る瓜生からは、突き抜けた歓喜や気分の良さは感じられない。「まだまだ課題点があるので、少しずつ少しずつなくしていきたい」 ミスターパーフェクトにもまだ課題点があるんですか!? そりゃ本人としてはまだまだ不満な点があるのだろう。だが、そのハードルの高さには感服するしかないし、またそこまで貪欲でありながら、決してそうとは感じさせない雰囲気は誰もが醸し出せるものではない。会見の終わり際に「お世話になりました」なんて頭を下げるあたりも、図抜けた人間性だ。 この人、やっぱりミスターパーフェクトなんだよなあ。会見場を去っていく穏やかな笑みを見ながら、しみじみそう感じた。これからあと何回、この艇聖スマイルを見ることになるのだろう。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)