磯部誠、SG初制覇おめでとう!
平成生まれとして、SG制覇一番乗り。つまり、ひとつの歴史を作ったわけである。4日目あたりに同室の池田浩二、寺田祥とその話題になったそうで、「(獲ったら)記事になるぞ、と思いましたね」とのこと。実際のところは、ピットアウトし、インをしっかりキープして、1マークを回ったときにはそのことは頭になかったとは思うが、なにしろボートレーサーには昭和生まれと平成生まれしか今のところはいないのだから、誇っていいエポックだと思うぞ。それも含めて、本当におめでとう!
やっぱり緊張していた、そうだ。朝からピットで過ごす時間はもちろん、1マークは緊張で身体が思うように動かなかったという。「すべてがワンテンポ遅れている感じだった」。それは彼にとって初めての経験だったそうだ。そう、これがSG優勝戦1号艇、なのだ。レース直前、ピットで原田幸哉が「あいつは緊張でおかしくなるようなタイプではない」と話していたが、そんな磯部でも身体が固まった。磯部はきっと、重圧というものをこれで知った。
ただ、原田が言う通り、それでも致命的なミスを犯すことはなかった。しっかり逃げ切った。緊張に乱れすぎることなく、乗り切る強さがこの男にはある、ということだ。準優を終えたあとにも「今日は緊張した」と漏らしていたが、それをしっかり認められることも大きかったと思う。そう、この男はプレッシャーともしっかり向き合える。
そんな磯部だが、JLCの優勝インタビューではこみ上げるものがあったようだ。遠目で見ていて、何か目のあたりをぬぐうような仕草が見えていたのだが、インタビュアーを務めた高尾晶子さんに確認すると、涙が瞳に溜まって言葉に詰まる場面があったという。デビューから13年半の足跡や、昨日今日の重圧と戦った時間など、もろもろ脳裏に浮かんだのだろう。「一戦一戦を大切にする」のが信条である磯部でも、やはりSG優勝戦の勝利はとてつもなく大きいものだったのだ。
そんな瞬間を見せたあとは、ただただ笑顔だった。ウィニングランから戻ってくると、そこには優勝戦をともに戦った池田浩二、平本真之の姿が。まず出迎えたのは池田で、両手を力いっぱい広げて磯部を迎え入れると、力強くがっちりと抱き合った。さらに平本とも熱いハグ。敬愛する先輩ふたりとの抱擁ののち、磯部は渾身のガッツポーズ! 池田も平本も本当に嬉しそうに磯部を称え、磯部もまた先輩の笑顔を受けてさらに目尻を力いっぱい下げるのだった。
敗者については、苦笑いが目立つレース後であった。特に深い苦笑は石野貴之。明らかなる超抜パワーを今日も見せつけ、3周バックで磯部に追いつきそうな勢いまで迫る場面もあった。それでも準Vに終わることもあるのがボートレース。石野としてはもう、笑うしかない、といった心境だったのだろう。
坪井康晴も、1マークは的確に差して3着は、磯部の逃走、石野のパワーを考えれば、上出来の部類だったか。1周2マークでは巧い旋回で2番手浮上かとも思えたのだが、やはり石野の機力が凄かった。そうなれば、やはり苦笑いを浮かべるしかなかろう。
茅原悠紀の場合は、モーター格納作業中に不良航法のアナウンスがあって苦笑い。2周1マークで失速して平本に不利を与えたのがその裁定となった。もちろん平本とは何の禍根もなく、ちょうどレースについて菊地孝平らと振り返っていた時にアナウンスがかかったから、つい苦笑いを浮かべたという次第。レース自体はその失速も含め、不完全燃焼だったか。
さて、SG初制覇だから、もちろん水神祭! 表彰式や優勝記者会見などの一連の儀式を終えて、仲間が待ち構えるピットに戻った磯部は、満面の笑みで頭を下げ、感謝の意を示している。
参加したのは池田、平本に柳沢一の愛知支部、そして元愛知支部の先輩である原田幸哉。さらには島村隆幸、地元の寺田祥、同期の佐藤翼もそこにいた。ウルトラマンスタイルで磯部が投げ込まれると、平本、島村、佐藤が続いてドボン。4人は笑顔で立ち泳ぎしながら、磯部の優勝を祝福し合ったのだった。
個人的な思いを書かせてもらえれば、そこに佐藤翼がいたのが感動的だった。2012年新鋭王座決定戦。舞台はここ徳山。佐藤は優勝戦1号艇で、しかしまさかのフライングに散った。あのとき泣き崩れて埼玉支部の仲間に抱きかかえられる彼の姿はいまだに記憶に鮮明だし、だから同じ徳山の、あのときとはステージが上がったSGに佐藤翼がいたことは感慨深く、また実はひそかにあのときのリベンジをと応援していた。佐藤自身は予選を突破できなかったが、最終日を迎えて優勝戦1号艇にいたのは同期の磯部。さまざまな思いが彼の中にはあっただろうし、それは本来なら桐生順平のレースが終わったら帰郷してもいいはずなのを居残ったことがよくあらわしていたと思う。同期生は見事に逃げ切り、あのとき佐藤ができなかった水神祭を果たした。陸に上がった磯部がJLCインタビューを受け終わるのを待って、最後にカメラマンにツーショットをお願いしていたのを見て、グッと来てしまった……。同時に、次は翼の番だぞ、と強く言っておきたい。いや、彼自身もそう思ったことだろう。
ちょっと脱線してしまったけれども、とにかく磯部誠よ、おめでとう。ずぶ濡れの姿が本当にカッコよかったぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)