盤石の逃走
10R
①平尾崇典(岡山)06
②田村隆信(徳島)08
③吉田拡郎(岡山)11
④湯川浩司(大阪)10
⑤松井 繁(大阪)16
⑥魚谷智之(兵庫)16
↑このスタートを切られては、他の艇は何もできない。
平尾の駆る超抜11号機は唸りを上げて、
バック中間で後続を千切り捨てた。焦点の2着争いは
湯川に分があるかに見えたが、1周2マーク、
盟友・田村の凄まじい全速差しが突き刺さった。
私の見立てより、はるかに回り足が仕上がっていた。
今節で一番の出来だった。一方の湯川は、
初日から劣勢だった回り足がここで響いた。
接戦での脆さを露呈した。松井にも捌かれて、4着。
優出できれば賞金王への夢が大きく膨らむ
賞金ランク17位の拡郎は、1マークで思う存分握った。
3コースの戦法としてはパーフェクトな仕掛けだった。
が、これも完全に仕上がった田村の回り足に容赦なくブロックされた。徐々に強くなってきたホーム追い風も災いしただろう。
力を出し尽くしたが、平尾先輩との地元ワンツーはならなかった。
1着・平尾、2着・田村。
平尾の足は、中辻のいない優勝戦では間違いなくトップ。
太田も相当だが、少なくとも伸びの分は上回っている。
出足、行き足も上位なので、この足を維持すればいいと思う。
田村は、すでに書いたように、今日の回り足が素晴らしかった。
この回り足はもちろんどのコースでも武器になるが、
スロー水域でこそ威力が倍増するような気も?
鬼の強襲
11R
①中辻崇人(福岡)07
②白井英治(山口)09
③太田和美(奈良)08
④篠崎元志(福岡)14
⑤齊藤 仁(福岡)14
⑥石渡鉄兵(千葉)16
今節、コンマ19が最高だった中辻が、
大一番でバチッとスタートを決めた。コンマ07。
さらにスロー勢は横一線、ダッシュ勢はこれより半艇身遅れて、
逃げるには絶好のスリット隊形だった。だが……
モーターボートは機械ではなく、人間の意志で動くのだ。
1マーク、中辻が駆る節イチ44号機が唸りを上げようとした瞬間、
それはすでに太田の引き波にハマッていた。
中辻は驚く間もなかったはずだ。
見えないところから飛んでくる、強ツケマイ。
3コースにはこれがあった。が、これを実現させるのは
至難の業だから、実戦ではたまにしか見られない。
まくりとは一線を画す、早仕掛けの強ツケマイ。
これは、戦法ではなく意志なのだ。度胸と決断なのだ。
今節の太田は、センターアウト筋から徹底して握り続けてきた。
いざイン戦になると、コンマ02まで踏み込んだ。
道中では、魚谷智之と無理心中にも近い大競りを演じた。ボートではなく、意志が走り続けていた。そして、今日も……。
「賞金王当確なのに、なんでそこまで?」
そう思った人はいるだろうが、
太田の目はおそらく“当確”以外のものを見ている。
トライアル初日の1号艇? それは、私にはわからない。
あるいは、何も見ていないのかもしれない。ただひたむきに、
目の前にあるSGを獰猛に剥奪しようとしているのかもしれない。
だとすると、2度目の賞金王は近い。そんな気がする。
ブレのない強固な意志が走るのだから。
2着は篠崎。太田のツケマイによって生まれた
最内の広々とした空間を、冷静的確に差し抜けた。
パワーは中堅レベルでも、判断の早さとハンドルの速さが
二番差しの背中を後押しした。走るたび、修羅場を踏むたびに、
この若者は強くしたたかになっている。
白井との競り合いに負けないほど。 1着・太田、2着・篠崎。
さてさて、チャレンジカップの準優回顧は、
このふたりだけでは済ませられない。賞金王への道。
今節のキーマンのひとり、白井は3着だった。この時点で、
実になんとも微妙な立場に立たされた。
優出ならもちろん自力当選の目があったが、
この3着で完全に他力本願となってしまったのだ。
その背筋が凍るような他力の状態が、いつまで続くのか。
それは、12Rの中島孝平に託された。中島が3着以下なら、
その場で白井に当確ランプが点る。わずか40分ほどで、決着がつく。逆に、もしも中島が優出すると……
他力の状態は24時間以上も続くことになる。
福岡ダービーマッチ
12R 進入順
①瓜生正義(福岡)12
⑥服部幸男(静岡)16
②山崎智也(群馬)12
③中島孝平(福井)08
④岡崎恭裕(福岡)04
⑤桐生順平(埼玉)11
まずは、レースから。服部が動いた。
スタート展示では桐生に完全ブロックされ、回り直しの6コース。
本番はさらにゴリゴリ攻めて、2コースを取りきった。
必然、瓜生も早めに舳先を向ける。
2艇の起こしは90mちょい。3カドのような
絶好のポジションになった智也が、ぐんぐん加速してくる。
それは、私が思い描いたスリットと、寸分も違わないものだった。
伸びなりに、智也が絞る。それも一緒。
イン瓜生まで叩き潰しに行く。これも一緒。こうと決めたら、
半端なまくり差しなどには行かない男なのだ。
瓜生の舳先に艇をぶつけながら、
智也は絞りまくりを完全遂行してみせた。
外から、メイチのスタートを張り込んだ岡崎がやってくる。
できたっ!! 2=4が大本線だった私は、叫んだ。
本当に、私の脳内レースをそのままなぞっただけの、
快心の光景が眼前にあったのだ。だが……。
ん?? たったひとつだけ、異質な“何か”が視界の片隅にあった。
間違い探しのクイズのように、ポツンとそれは異彩を放っていた。
白いカポック。智也に弾き飛ばされたはずの瓜生が、
なぜか先頭集団にいた。 なんでやねんっ????
思わず、関西弁で叫んでしまった。後にVTRを見たが、
瓜生は智也に舳先をコツンとぶつけられた直後、
そのまま何事もなかったかのように慣性の法則に従って
舳先を進行方向に傾け、何事もなかったかのように
真っ直ぐ走っていた。ひとつの焦りも誤りも憤りもない
ハンドルワークだった。なんてヤツだ。並みの選手なら……
よそう、瓜生が並みの選手じゃないことは、誰だって知っている。
私の舟券を紙屑にしながら、
瓜生と岡崎の福岡コンビが颯爽と抜け出した。
これが、凄まじいデッドヒートだった。2周ホーム、
半艇身ほど分があった瓜生が、外から後輩をぐいぐい締め付けた。
一歩も引かない岡崎。2周1マークの少し手前で、先輩が折れた。
ここは準優という舞台、あるいは優勝戦ならブイまで締め付けたかも
しれない。いや、瓜生はそこまでやらないか。
艇を外に開いて、瓜生は差した。敵のマイシロを消しての差しだから、賢明な戦法でもある。だが、やまと軍団の中でも屈指の腕達者と知られる岡崎は、まったく無駄のないシャープな先マイで応戦した。
再び2艇の舳先が並ぶか。思った瞬間、
岡崎の艇がスススッと伸びた。瓜生よりもレース足が
強めであることを観衆にじっくり知らしめるように、
徐々に先輩との距離を引き離していった。
1着・岡崎、2着・瓜生。
溜め息をつきながらこの結末を悟った私は、
後方に目をやった。中島が、5番手あたりを走っていた。
その姿は、とても哀しそうだった。
惨敗した者の姿はいつだって哀しげだが、とりわけそう見えた。
もちろん、中島は必死に前を追っているのだ。
私の脳が、哀しい姿にすり替えているのだ。
5着でゴールを通過して、今度は中島の自力での
賞金王への道が閉ざされた。同時に、今垣光太郎、智也、白井への
当確ランプがいっぺんに点った。こと賞金王に限るなら、
白井の精神的苦痛は40分で終わった。
同じ水面を走った智也が“他力”状態だったのは、
中島がゴールするまでのわずか2秒ほどだった。
すぺての準優が終わって、「ROAD to 住之江~最終章~」は、
実にわかりやすい勝負駆けが残された。すでに11選手が当確。
明日、太田か瓜生が優勝すれば、
最後の1席は中島に
(ただし、明日の2走で失格などのアクシデントがあれば、
池田に届かない可能性が生じる)。
そして、太田と瓜生以外の選手が優勝すれば、
中島は落選してその優勝者が
最後のチケットを受け取ることになる。
明日、中島のやるべきことは、自身のレースをしっかり完走して、
優勝戦の結果を待つ。それだけになった。
(photos/シギー中尾、text/H)