BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――プロペラ

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 モーター抽選情報を私が一部訂正させていただきます。「20か50を引きたい」と言ったのは、吉田は吉田でも拡郎のほう。そして、私がいい気になって口ずさんでいた「20、50、喜んで♪」はカクローのパクリなのでありました。某CMをもじったものですね。カクローは狙っていたその2機を引けず、20を引いたのが吉田は吉田でも俊彦のほうだった次第。カクロー選手、すみません&残念でした。

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 それにしても、吉田トシにとっては、思いを果たすために格好の相棒を手にしたと言えるだろう。昨年のグラチャン、優勝戦1号艇で敗れ、SG初制覇に王手をかけながらも逃してしまったトシ。1年経って、今年はもちろんリベンジを果たす戦いに臨むのであり、トシ自身も好機を手にしてさらに力が入るところだろう。選手入りの際、ニコニコ@ボートレースの生中継を担当している永島知洋氏にマイクを向けられ、ほぼノーコメントで足早に通り過ぎて行ったトシ。その後ろから「トシはリベンジで気合入ってますわ」と師匠の馬袋義則がフォローしていた。1年経とうが、あの日の悔恨を忘れられようものか。

 で、ピットでの様子は、レース場入りのときに比べると表情がずっと明るかった。試運転でエース機の手応えを実感したのだろう。選手たちは目の前の一戦一戦、一節一節に力を尽くす。トシだって、明日からはその思いでレースを走る。だが、ひとつの連続ドラマというファクターを通せば、レースはよりコクを深め、ぐっと濃厚なストーリーが生まれる。今節のトシには「リベンジ物語」というファクターがある。さらにエース機ゲットという要素が加わった。間違いなく、主役の一人として、明日のトシは水面に立つ。

 

 ところで、新プロペラ制度がスタートして1年が経過したが、言うまでもなく、抽選で引いたモーターにはプロペラが装備されているわけである。そのペラは、前操者が叩いて仕上げたものであって、その前操者と自分のペラの形状が同じとは限らない。いや、むしろ自分が叩いて仕上げる形とは違っていることがほとんどであろう。

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 だが、前検ではそのまま乗るという選手もけっこういる。ドリーム組は6人ともがもらったままで前検に臨んだようだし、試運転中もペラ室に選手の姿はそれほど多くなかった。ドリーム組では、瓜生正義はまったくペラを見ることなく水面に飛び出したようで、「乗りやすさはすごくあったが、伸びは良くない」とのコメント。手応えがいいとは言えないわけだから、明日は1日かけて自分の形に叩き直し、パワーアップをはかることになるのだろう。最近の瓜生は、前検のコメントがまるでアテにならない傾向がある。それはまさしくこういうことで、ドリーム戦までにある程度仕上げてレースに臨み、気配が一変するケースが非常に多いのだ。

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 一方、篠崎元志は「そのまま乗ったが、自分のゲージを当ててみたら、形がぜんぜん違っていた」とのこと。もらったままで前検を走ったのは瓜生と同じでも、こちらは形をチェックはしていたのだ。で、「出足が非常にいい」とのことで、瓜生とは反対に好感触。それでも、「明日は時間があるので自分の形に叩く」のだそうだ。この出足の良さはモーター本体の力強さである、と感じたということか。そのうえで、他のアシもバランスよくパワーアップさせようということだろう。

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 前検をもらったままの状態で走った選手は、こうしてその後はペラ調整にいそしむことになるわけだ。事実、ペラ室は時間を追うごとに混雑の度を増していく。前検を終えた選手が、自分の形に叩き変えたり、感触によって調整をしたりするため、次々にペラ室に向かうからだ。前検5班(前半組の最終班。後半組は6~9班で、5班終了後に試運転の時間を挟んで、タイム測定などを行なう)の重成一人がペラ室に入った頃には、すでに満員御礼状態となっていて、重成は混雑を避けるためか、室外でゲージを当てて形をチェックしていた。まあ、叩きは室内でなきゃできないけどね。

 一方で、ペラを自分の形に叩いてから、前検に臨む選手ももちろんいる。渡邉英児もその一人で、かなり激しく叩いていた。足の裏でペラを押さえ、立ち上がって、ハンマー一撃! これを何度も繰り返していた。勢いをつけるために立ち上がったのか、叩こうとする角度がそういうことだったのかは不明だが、まだ閑散としているペラ室でハンマーを振り下ろしている姿は、かなり目立つものだった。

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 前検を終えた英児は、早くも本体を外している。部品交換があったかどうかは未確認だが、前検日に本体をいじる選手はそれほど多くないから、英児は今日、かなり異端な動きをしていたということになる。以前からコツコツと仕上げていく姿が印象的な英児だが、前検日にある程度のメドをつけることで、日々のパワーアップの下地を作っているわけである。

 

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 さて、今日は珍しいハプニングがあった。ボートリフトが故障したのだ。2台あるうちの1台だったので、前検の進行には支障がなかったが、一人だけ、この事態に困ってしまった男がいた。田村隆信だ。

 まだ1班のタイム測定とスタート練習が始まる前、すなわち試運転の時間に着水しようとした田村がボートをリフトに乗せた。3艇収容のリフトに乗ったのは、田村のみ。最初は順調にリフトは降りていったのだが、これがあと数十センチで着水しようかという時点で、ぴたりと止まってしまったのだ。もちろんそれ以上降りないし、上昇もできなくなったので、田村は着水もできなければ、いったん陸に戻ることもできなくなった。田村はボートとともに宙づりになってしまったわけである。

 田村は手すりによじ登り、それを足場にしてなんとか陸に這い上がった。しかし、リフトは動かない。田村は呆然と宙づりのボートを見下ろすのみで、やがて関係者がわらわらと集まって来て、田村はその輪の中で苦笑いを浮かべるしかなかった。「そんなに走りたくないのか~」と重成一人がからかいつつ気遣っていたが、リフトが動かないものはどうしようもない。やがて、前半組の前検が終了し、後半組の試運転タイムが始まる。7班の田村は後半組で、タイム測定などの前に試運転やニードル調整などを行ないたかったはずだが、ああ、時間は刻々と過ぎていくばかり。いや、このまま着水できなかったら、前検を終えられないではないか。

 修理業者の方が駆けつけて、直ったわけではないけれども、ボートを着水できるところまでリフトを下げることができたので、田村は急遽用意されたハシゴを使ってボートに乗艇。「お騒がせしました~」と野次馬に頭を下げて、ようやく水面へと出て行ったのであった。いや、いちばんヤキモキしていたのは田村自身でしょう。試運転タイムはあと5分、田村、急げ急げ~っ!

 というわけで、私は明日の田村の舟券、めっちゃ買いたいと思います。なんか、むしろ明日は“買い”だなあ、と思ったんですけど、果たして。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)