BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――迷いながら強くなる!

 装着場のど真ん中あたりに、ヘルメットや工具袋を一時置いておく棚が設置されている。レース中はそうしたレースに関するものが置かれているわけだが、10R終了後、小さなバッグと一冊の本が置かれていた。

「迷いながら、強くなる」

 羽生善治の著書である。羽生とは、将棋のタイトル全7つを独占したことのある“グランドスラマー”で現三冠。歴史に残る最強棋士である……って説明する必要もないですかな。あの羽生ですら、迷いがあり、その繰り返しで強くなる……てな書籍でしょうか。読んでないのでよくわかりません。しかし、常に強者となることを目指して努力を積み重ねるボートレーサーの愛読書といわれれば、首肯するしかないのは事実。というわけで、これがいったい誰の本なのか、興味津々となった次第なのであった。

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 将棋といえば、白井英治である。畠山直毅とは、将棋における師弟関係を結んでいるという間柄。師匠が白井で、弟子が畠山である。何年か前にその関係を賭けて対局し、白井が勝った結果、畠山が師事することとなった。畠山はかつて将棋雑誌で執筆し、とある賞を受賞した経歴があり、将棋の実力もなかなかのもの。その畠山を撃破したのだから、白井の腕前もアマなら段位がとれるほどのものである。ということは、この本、白井のものかなあ。あと、上瀧和則選手会長が艇界きっての強豪棋士であることは有名ですね。CSでプロ棋士と対戦したこともあるはずだ。ただ、上瀧会長は今日は来場していないから、会長の本ではないか……。

 

 

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「1便バス、まもなく出発します」

 そんなアナウンスがかかり、1便で帰る選手がバスに乗り込み始める。そのとき! その棚にスタスタと歩み寄り、バッグと本を手に取ってバスへと向かったのは、中岡正彦だった。中岡でしたか! 今年は総理杯で優出している中岡は、もちろん実力者の一人である。コースも果敢に獲りにいくし、センターからは強烈なまくりも放つ。今節はやや苦戦しているものの、昨日は2コースから1勝をあげた。そんな中岡でも、やはり迷いが生じることもあるだろう。それは時に、中岡を悩ませるものになったりもするだろう。だが、羽生でさえ同様だとすれば力も湧く。また、迷いの中で強くなっていくすべも、その本からは感じ取れるだろう。

 明日の中岡がどんな妙手を指してくれるのか、おおいに楽しみになった次第である。

 

 

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 11R発売中だったか、選手班長の田中信一郎を呼び出すアナウンスがあった。ペラ室にいた田中は、競技本部へ。数分で戻ってくると、ふたたびペラ室へと入っていく。ペラ調整の途中だったのだろうか。

 と思いきや。池上カメラマンが、「信一郎を中心に若手が車座になってる」と報告してきた。そーっと覗いてみると、たしかに田中の周りに桐生順平、篠崎仁志、岡村仁ら、若手選手が集合し、小さな輪を作っている。ペラ叩きにしては、ずいぶんと近接した位置取りだ。

 よく見ると、田中たちはペラを叩く木槌に巻かれていたテープを外していた。桐生は、叩く部分を手にして柄を地面に叩きつけ、両者を分離している。どうやら、一斉にハンマー調整のようなことをしているらしかった。言ってみれば、雑用である。

 

 

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 それを田中は、若手に命じてやらせるのではなく、自分が中心となって、率先して行なっているわけである。「やってみせ、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば人は動かじ」。山本五十六の名言として知られている言葉を思い出したぞ。田中はまず、「やってみせ」たわけだ。

 賞金王決定戦出場を逃した年は、いつも暮れの住之江では田中が選手班長を務めている(僕が知っている限り)。倉谷和信など、先輩がいるときでも、だ。人望に厚いということだろう。その一端を、そんな目立たぬ風景から感じ取ったような気がした。来年は平和島開催だから、いずれにしても班長の役目は東京支部に任されるだろうが、やっぱり決定戦で戦うのを見たいですよね。

 

 

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 さて、予選トップは前本泰和。ハッキリ言って、ノーマークでした。すみません! 畠山が「節イチは前本!」と言っていたので、レースは注目してみていたが(舟券も獲らせてもらいましたが)、ピットではエンジン吊りくらいしか見かけていないのである。あと、1便バスに乗り込む姿とか。まったくもって不覚である。明日からは当然主役になるので、こちらも意識して姿を探すことになるわけだが、決して目立たないながらも予選をトップで通過するあたりが、さすがの実力者である。師匠の西島義則は、グラチャンで負ったケガによる長期欠場から復帰した。その快気祝いにSG初制覇を目指せ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)