BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――すみません

 仮設整備棟への長い通路を歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。ピッチからすると駆け足のようで、僕はすかさず端っこに身体を持っていく。ボートレーサー約2人分の体重を持て余している巨体なのだから、脇に避けて道を開けなければ。その1秒ほど後に、「おはようございまーす」と言いながら田中信一郎が走って通過。右手にプロペラを持っていたから、試運転をし、ペラを外して調整に走る、という場面だっただろう。こちらもおはようございますと返しながら、やっぱり大変なピットだと痛感。なにしろ田中は4Rに出番があるので、時間に余裕はないのである。駆け足移動で少しでも時間を無駄にしないのも自然なことだろう。

 装着場に着くと、ちょうど岩崎芳美がボートをリフトのほうへ運ぼうと出ていこうとするところだった。笑顔で挨拶をしてくれた岩崎は「一日中、ピットをあっち行ったりこっち行ったりしていると、1万1000歩になるらしいですよ」とおかしそうに言った。今節、JLCで選手取材を担当している犬丸美帆さんが万歩計をつけて一日取材したら、それだけの歩数になったと言っていた。おそらく犬丸さんからの情報なのだろう。犬丸さんも大変です。ようするに、選手もおおむねそれくらいは歩いているということだ。だというのに、岩崎は結局こちらを気遣う。「夏に来ることになったら大変ですね!」って、こちらとしては「岩崎さんも夏に地元でレースすることになったら大変ですね」ですよ! 岩崎さんにはいつも癒やされるなあ。

 その後、いったんリフトのほうから控室のほうへ移動し、ふたたび仮設棟のほうに向かっていく途上、ボートをリフトのほうへと運んでいる服部幸男とすれ違った。や、これはさらに端っこを歩かねば! というわけで壁すれすれを慎重に歩いていたら、服部はにこりとしてくれたのだった。こちらの挨拶にも、笑顔でおはよっすと返してくる。うーん、やっぱりカッコいい! デヴとすれ違うストレスを与えてしまって申し訳ありません!

 ところで、整備室からは寺田千恵の朗らかな声が響いてきていた。整備士さんと話をしており、整備課と目を凝らしても、寺田のモーターは見当たらない。一昨日、電気一式とキャリアボデーの交換をしており、それによる感触変化の報告だろうか。いや、よく見ると、ちょうど白井英治が本体整備中。どうやら白井を交えての談笑のようだった。

 そうそう、昨日は森高一真が12Rでピストン2本交換しており、転覆後だったのでそれが認められたのかと勝手に解釈していたら(電気一式も換えていたので)、森高は一昨日もピストン2本を交換していたんですね。確認を怠っていた。つまり、本体に関する部品も交換が許されているということだ。昨日の12Rの交換は元に戻したのかどうかわからないが、今後もそうした部品交換があるかもしれない。しっかりチェックをしておこう。

 で、白井の整備が交換だったかどうかは直前情報をご確認ください。1Rの発走直前に白井は整備を終えてモーターを装着。ちょうどファンファーレが鳴った頃に、検査員さんの検査も終わった。白井のボートはたまたま装着場にあるモニターの前に置かれており、検査にに立ち会っていた白井はレースをこのモニターで観戦することになった。スタートの瞬間、白井が「おおっ!」と声をあげましたね。インの中岡正彦がハナを切った瞬間だ。

 そう、中岡はF2での参戦。林美憲の前付けで深い起こしとなっており、スタートで後手を踏んでもおかしくない状況だったのだ。だというのに、中岡はコンマ05! 白井が絶賛の歓声をあげるのも当然なのである。昨日の「展望BOATBoy」で僕はこの1Rを注目レースにあげ、中岡はF2でスタート不安だから足がいい石渡鉄兵と前付けからまくる林美憲をアタマに据え、中岡は2着にも絡めないという予想を披露している。“本紙予想”もそういう予想ですね。………………中岡選手、すみませんでした! あなたはスゴい! まったく感情をあらわにしないレース後の中岡にレンズを向けながら、心のなかで謝り倒していたワタシであります。

 一方、林美憲は2コースを奪ったもののコンマ20のスタート。中岡から1艇身も遅れたスタートでは、見せ場作れずも致し方なし。5着大敗で、準優勝負駆けも厳しくなってしまった。エンジン吊りを終え、控室への通路を歩いてくる途上、林は「ちっくしょう……」と呟いた。前付けは渾身だっただけに、スタートを行き切れなかったのが悔しくてたまらなかったのだろう。選手班長として忙しく動きながらも陽気にふるまっていた林。今節初めて見る、勝負師の表情だった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)