BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――うららかな春の空気の中で

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 整備室を覗いたら、田村隆信が本体整備をしていた。8R1着だったのに、本体をバラしているのだ。もちろん足色に納得がいかないのだろうが、1着を獲ったあとというのは、大きな整備はやりにくいものだろう。勝つことのできた足色をなくしてしまう可能性がある、からだ。次のレースで負ければ、整備が裏目に出たと悔やんでしまうこともあるだろう。それを避けたいというのが、普通の心理である。

 リスクを恐れず攻める。田村のこの姿勢は、レースぶりと相通じるものだ。果敢な前付けを見せたかと思ったら、内枠なのに外コースに出て攻めたりする。ここぞという場面では思い切った全速戦。すべて、リスクを伴う攻め方である。特に進入ではさまざまな種類のリスクがあるだろう。それを田村は恐れない。怯むことなく、信じた戦いを貫くのだ。だから田村は面白いし、レースはエキサイティングになる。整備する姿を見ながら、深く首肯した次第なのだ。

 田村の表情は決して暗くなかった。整備の途中で少しだけ言葉をかわしたのだが、柔らかい笑顔が浮かんでもいた。追い詰められての整備ではない、ということでもあろう。やっぱりこの人からは目が離せないと改めて思った次第である。

 

 

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 整備室では、山口剛と毒島誠の姿も見かけられた。手元が死角になっていたのでハッキリとはしないのだが、そこはゲージ擦りのテーブルだったという記憶がある(明日確認します)。速い段階でのゲージ擦りは出ている証し、というセオリーに従えば……なのだが、毒島は今日、ピストン2、ピストンリング4、シリンダーケースを交換して10Rに臨んでいる。いわゆる「総とっかえ」というヤツで、モーターの気配が苦しい証しである。

 二人は並んですわって、真剣な目つきで何かを話し合っていた。山口は91期、毒島は92期。同世代の二人だ。支部は違えども、話がしやすい間柄であろう。ともに若きSGウイナーでもあり、相通じる部分も少なくはないはずだ。こうしたコミュニケーションが、「メンタルの整備」となる可能性もある。毒島はなんだかんだで、6着1本以外は3着2本とまとめており、ここからの上昇を期待したいところだ。

 

 

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「奥のペラ室」から、新田雄史が出てくるのを目撃した。11Rが間近に迫る時間帯だ。新田はペラを手に10数m歩き、雰囲気としては本日の作業を終えて控室へ、という感じであった。そこで、新田は立ち止まる。ペラを顔に近づけ、上を向いて光をかざして翼面をチェック。井口佳典も同様のポーズをよく見せていて、井口組流のチェック方法だろうか。すると、新田は突如、踵を返した。またスタスタと奥のペラ室へと戻っていったのだ。違和感を見つけて、もう1回調整のやり直し、という雰囲気。今日はもう遅いし、もうすぐ師匠のレースが始まるから、明日また調整しよう、とはならないわけである。うむ、ワタクシも見習わないと……はともかく、こうした積み重ねが大きな舞台で結果につながるということなのだろう。新田の足色は明日、どうなっているだろうか。

 

 というわけで、多くの選手が遅い時間帯まで、飽くことなくパワーアップを目指していた2日目の午後。ピットの温度計は18℃を指し、風も穏やかで、気持ちのいい春の午後。僕は心地よい空気についほよよんとしてしまったのだけれど、選手たちにはそんなヒマはない。明日は気を引き締めて、選手たちの動きを追わなきゃいけませんね。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)