BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――マイペース

 

 

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 優出インタビューで「何もしない」宣言をした菊地孝平だが、本当に何もしていなかった。エンジン吊りには積極的に参加していたので、厳密に言えばなんかしていたけれども、ペラ調整所にも足を踏み入れないし、ボートにもほとんど手を触れないし、カメラマンの持っていたカメラを興味深そうに眺めていたし、本当に調整作業は何もしていないのである。整備をしないのも整備、とかつて元選手の方が言っていた。少しでも上積みしたいと欲が出るのが人間というもの、しかし、すでに最高のパフォーマンスができる状況にあるのなら、ぐっと我慢するのも整備のうちだ、ということである。菊地を見ていて、そんなことを思い出した。

 

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 丸岡正典も、何にもしていない。もちろんエンジン吊りにも参加しているので……という話はもういいか。今日も飄々と、そしてゆったりと、時を過ごしている。齊藤仁が「丸ちゃーん」と声をかけた。水面際に移動した二人は、のんびりと会話を始めた。手すりにひじを当ててもたれかかり、仁ちゃんの言葉に穏やかに耳を傾ける丸ちゃん。

 そういえば、競馬の世界では今日はダービーである。仁ちゃんと別れた丸ちゃんに、「ダービーの日に、ミスターダービーとしては勝たなきゃいかんでしょう」と軽口を投げてみた。ニャハハと笑った丸ちゃんは、「あぁ、馬券買いたかったなぁ」とボソリ。もし勝ったら、「丸岡はやっぱりミスターダービーだった、とか書きますから」と追い打ちをかけたら、「あ、それいいですね」と言って、またニャハハと笑った。リラックスしてるなあ。

 

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 唯一、調整作業に励んでいたのは、「最高の叩きをしたい」と優出インタビューで語っていた茅原悠紀。インタビューから戻って、さっそく叩き始めていた。叩いていたのはもちろん、プロペラである。菊地、丸岡とは対照的な動きなのだが、決して切羽詰った表情ではなく、かなり肩の力が抜けているという印象だった。エンジン吊りのとき、烏野賢太が茅原にアドバイスを求めているのを目撃した。大先輩が、茅原のペラ技術を当てにしていたのだ。今節の茅原の気配を見てのものか、それともすでに茅原はペラ巧者と認識されているのか。いずれにしても「最高の叩き」でさらに仕上げたペラを武器にする若武者、かなり怖い存在だと思う。

 

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 今村豊と今垣光太郎は、モーターのセッティングを並んでしていた。最初に始めたのは今垣で、これがもう、緻密というか繊細というか、極限の丁寧さでセッティングをチェックしている。これが今垣光太郎のルーティン。細部までこだわることが、今垣光太郎流なのだ。優勝戦の朝だろうが、一般戦だろうが、今垣は絶対に動きを変えることはない。これが光ちゃんの強さである。

 

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 今村は、次から次へとレンズを向けられて、とことん注目されている。それは、優勝戦1号艇という以上の視線の集め方だ。そんな状況でも、今村は何も態度が変わることなく、声をかけてきた人を笑わせていたのだからさすがである。途中、地上波放送のゲストである皆川賢太郎さん(スキーヤー。上村愛子さんの旦那さん)があいさつにやってきた。今村は皆川さんにボートの仕組みやエンジンの仕組みなどを説明したりしており、皆川さんは時に笑いつつ、真剣に聞き入っていた(光ちゃんは、ボートの乗り方をレクチャーしていた)。

 すでにベテランの域に入った二人の“今”は、マイペースで過ごしていたわけである。

 

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 もう一人、服部幸男だが、3Rまでの時間帯では結局、エンジン吊りをしているところしか見ることができなかった。こちらもマイペース。余裕である。40代、50代の実績者たちは、自分なりの過ごし方をよく知っているのだ。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)