BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――エキサイティング!

 

 

 

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<9R>

 19年ぶりのSG優出! これはすごい。服部幸男がオールスター、グラチャンで16年数か月ぶりのSG制覇を期待されたのが記憶に新しいが、三角哲男は勝てば20年ぶりである。これは「久しぶりのSG優勝」記録を大幅に更新するもの! 三角の優出は大きな大きなトピックなのだ。

 ピットに戻って、三角は朗らかに目を細める。開会式でもコミカルなコメントで笑わせる男、記者会見では「優出? 覚えてませんねえ。30年前くらいじゃないですか」とやっぱり他人の笑顔を引き出す。三角を出迎えた選手で、もっとも嬉しそうな笑いを引き出されていたのは平石和男だ。あ、この二人、同期だ。来年はそろってマスターズ(名人戦)に出場する58期生が、この快挙に笑顔を交わし合った。そんなシーンを見せられれば、こちらの頬だって緩むというものである。

 

 

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 実は、敗れた山口剛や鎌田義からも笑顔が見えていた。山口の場合は、あの展開になれば仕方ないというか、してやられたというか、わりとサバサバとした笑顔だった。一方の鎌田は、悲しそうに静かな微笑みを浮かべていた。コース動いたはいいが、スタート遅れ。そんな自分を微笑の奥で責めていただろうか。

 

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 そして、寺田祥ももちろん笑顔! 出迎えた白井英治とはハイタッチを交わしている。テラショーのSG優出も久しぶりだなあ。今日は回転が合ってなかったとのこと、それでいてあの迫力あるカドまくりを繰り出せたのだから、ビシッと合わせたら相当な足になるはず。その手応えがあることも、テラショーの笑顔につながっていたのだろう。

 

 

 

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<10R>

 レースが始まる直前、中澤和志がピットにあらわれている。中澤は出走待機室に入っていき、そこでレースを観戦するつもりのようだ。何か思うところでもあるのだろうか。

 谷村一哉がきっちり逃げ切った瞬間、合点がいった。82期の同期生ではないか。中澤はそうして一人、同期の勝利を祈って念を送っていたのだろう。82期のなかでは、谷村は決してSGに早くから登場したわけではないし、常連というわけでもない。そんな谷村が今、SGで主役の一人になろうとしている! 同期生たちの心が沸き立たないはずはなかった。

 谷村が先頭でゴールインしたあとには、菊地孝平が走ってボートリフトに駆けつけている。まだ谷村がリフトに到達するはるか手前で、遠くに見える白い勝負服に向かって、菊地はガッツポーズを何度も何度もしてみせていた。嬉しそうだ!

 結果的に、谷村は優勝戦1号艇となっている。逃げ切れば、82期5人目のSG覇者。これは、銀河系軍団の5人に並ぶタイ記録である。沸き立つ同期生の輪の中で、最高の笑顔を見せてくれるだろうか。

 

 

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 このレース、惜しかったのは石渡鉄兵だ。1周2マークでいったんは2番手争いに浮上し、しかも最内だったからもっとも有利なポジションにいた。優出は確定的にも見えていた。

 競ったのは、同期生の辻栄蔵。74期生だ。石渡と辻は、同期の中でも特に仲がいいという。プライベートでもよく一緒に遊んだというし、今でもペラ室では隣同士で調整をしていたりする間柄だ。そんな二人であっても、水の上ではガチンコ勝負! 辻は、先頭艇の引き波をなぞっていった石渡の内を容赦なく差した。明暗が分かれる旋回だった。

 ピットに戻ると二人は、静かに目を合わせて笑い合っていた。もちろん石渡はため息交じりで。辻は二人で優出を争い、競り勝った満足感を漂わせて。きっと今日の競り合いは、二人の思い出のひとつとして、共有されたことだろう。もし選手宿舎で酒が飲めるのなら、今夜あたり盃を交わしつつ、語り合うところだ(宿舎ではアルコール厳禁なのです)。

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 で、石渡をつかまえて、肩を掴んで大きく揺すった男がいた。守田俊介だ。そう、もう一人の74期生。守田は同期の競り合いを眺め、勝った辻よりも負けた石渡に肩入れしたわけだ。その心中を察し、あえて荒々しくスキンシップをとることで、石渡の悔しさを軽くしようとしたのである。そして守田は石渡の肩を抱き、石渡は大きく目を細めた。同じ釜の飯を食う、という言葉は、実はかなり重厚なものなのかもしれない。

 

 

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<11R>

 

 まず毒島誠。エンジン吊りを終えて、控室に戻る足は、とてつもなく早かった。まるですべての人を拒絶し、早く一人になりたいという風情。これは遠目で見えたという程度なのだが、モーターを格納したあとも、ものすごいスピードで控室へと戻っている。

 気持ちはわかる。断然の予選トップ通過で、足に手応えもあって、連覇も当然見えていたなかで、連にも絡めず敗れたのである。毒島のその姿は、これ以上ない、ピュアな悔恨の表現である。

 僕個人の勝手な感覚は、この悔しすぎる敗戦はさらに毒島誠を強くするはずだ、ということだ。昨年のMB記念の優勝以来、一気にブレイクした毒島が、同じ舞台で挫折を味わった。天国だった昨年、地獄を味わった今年。この2つの経験は、若者に与えられる最高の経験だと思うのである。だから、これからの毒島にはさらに期待! そして、あのように純粋に悔しがって見せた毒島を、僕はカッコいいと思うのである。

 

 

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 ピットに戻った池田浩二は、すぐさま松井繁のもとにすっ飛んでいって、頭を下げている。1マーク、差そうとした松井の進路をふさぐかたちで換わり全速に出た池田。その場面について、礼を尽くしたわけだ。接触などあったわけではないから、もちろん松井も後腐れなく右手をあげて返している。松井も男らしいし、相手が松井だろうと臆さず攻めた池田もたいしたものだと思う。

 それにしても、池田のコメント、すごいぞ。「自分の理想とする足」だそうだ。池田がこんなに自分の足を誇るのは珍しい、と昨日のコメント欄に書き込みがあったが、おっしゃる通り。いや、ここまでのコメントは、ハッキリ言って、聞いたことがない。池田がなぜ泣きコメントばかり出すのか。それは、「自分が課したハードルを超えない限りは、『出ている』とか『いい』とかはどうしても言えない」からである。求めているレベルが違うのだ。その池田が、「理想とする足」まで言った。つまりは、次元の違うパーフェクトな足、ということである。

 ちなみに、池田の表現としては「行き足でもたつかず、ターンではグリップし、直線では置いていかれたりしない」である。すげえなあ。つまり、「全部がいい」ということじゃないか。明日は5号艇。枠は遠い。たぶん5コースだろう。だが、もはやそんなことは関係ない。絶対に侮ってはならないのだと、言っておく。

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 で、白井英治だ。来た。そのときが来た。僕はそう確信している。

 白井の勝利で優勝戦の内枠がすべて山口勢となったわけだが、それに対する歓喜だったのか、白井はリフトで陸に上がった瞬間に「やったぞ!」と咆哮し、谷村とハイタッチをしている。準優進出した3人が、9、10、11Rに分かれたとき、優勝戦で顔を合わせようと誓い合っていたか。白井はとにかく、嬉しそうだった。

 それよりも! 僕は白井の言葉に、今までとの違いを感じずにはいられないのだ。地上波放送のインタビューでも、共同記者会見でも「山口のなかから優勝者が出ればいい」ということを白井は言った。それについては、僕は大きな違和感を覚えた。たしかにそれは優等生的なコメントだし、もちろん本音でもあるだろう。自分が勝てなかったら、谷村か寺田に勝ってほしい。それはもちろん、ウソではないだろう。

 だが、もはや白井はそうした言葉を言うべきではない! 僕はそう思った。勝手に思った。本気で獲るなら、その本音を封印すべきだ。白井の言葉を聞いて、僕はすっかりエキサイトしてしまったのである。

 だから伝えた。それを白井に二度も伝えた。

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「もちろんだよ。そのとおり。自分が勝つために頑張りますよ。友達だけど、真剣勝負なんだから」

 スリットでのぞいたら、たとえ谷村が相手でも締めにいく、と言ったのは会見だったか、その時だったか。本当なら、コメント上でも「山口勢の誰か」的なことは言ってほしくなかったが、それはそれとして、白井のテンションは僕が見てきた白井の優勝戦とは明らかに違っていると思う。そういえば、会見では「これまでにも出ていたことはありました」と言った点にもこれまでとの違いを感じたな。今回は間違いなく節イチだと思うが、「こんなに出ていたことはない。だから今回はチャンス」的なことを言ったりしたら、僕は「それは自分をごまかしてるだけでは?」と訝しく思ったことだろう。今まで、エンジンが噴いてたけど獲れないことがあった、と認めたのだ。素直にそれを口にしたのだ。そこに大きな大きな意味があると思う。

 書きながらもエキサイトしちゃったけど、それだけの手応えを僕はハッキリ感じた。獲れる! 今度こそ獲れる! 僕は本気でそう思っている。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)