優勝戦を前にした選手たちは、わりと穏やかな表情で過ごしていたと思う。平山智加との同期コンビで笑い合っていた松本晶恵はリラックスしているように見えたし、遠藤エミも微笑が絶えなかった。長嶋万記がちょっとだけ気合の入った表情をしていたが、ペラ室に入って調整をしながら、仲間と言葉を交わすときには、いつものマキちゃんスマイルが見えている。やはりクライマックスよりは、ピリピリしたものが薄いのだなあ、と思ったわけである。
しかし、レース後の表情を見れば、彼女たちが優勝を欲していたのは明らかである。当たり前のことかもしれないが、プレミアムGⅠに対する一般戦とか、賞金が10分の1とか、そういうことを考えれば、モチベーションに差があるのも当たり前のはず。しかし、いざ勝負に臨めば、全力で勝利をもぎ取りにいく。それをまた改めて知らされたように思う。
象徴的だったのは遠藤エミだ。変わらず微笑は浮かんでいたが、明らかにガックリと肩が落ちている。そんな遠藤の肩を小野生奈が抱いた。遠藤は小野の肩に軽く頭を預けるようにして、小野の慰めに応えた。あからさまな悔恨の発露は、遠藤のこのレースへの思いをあらわしていた。
小野も今節は悔しい思いをした。ともに悔しさを分かち合って、来年こそは一緒にクライマックスへ! 来年の暮れの福岡で、二人がこの悔しさから立ち上がって真っ向から激突することを想像してしまうような光景である。
竹井奈美も表情はカタかった。6号艇である。メンバーのなかではもっともキャリアが浅く、実績も残していない。それでも、竹井は負ける気などさらさらなかった。まして、3番手争いでは長嶋と競り合った末に敗れた。一時は竹井が優勢だっただけに、これもまた悔しさを増長する出来事だっただろう。竹井も来年は地元クライマックス。この12月31日をバネにして、2015年にさらに飛躍することを願う!
あ、山川美由紀は、淡々としているようにお見受けしました。山川ほどの人だから、悔しさを解消するすべもわかっている? これはあくまで勝手な思いだが、本来はクライマックスに自分がいないということのほうが悔しかったはずだと思う。
優勝は中谷朋子! コンマ10のトップスタートには痺れた! その数十分後にもっと凄いスタートを我々は見ることになるのだが、しかし中谷はF持ちであり、そのFも女子戦優勝戦で1号艇から切ったものであり、それもたった1カ月前のことであり、しかも直前に向かい風が強まっていたのである。追い風よりはマシだったかもしれないが、スタート勘の修正を強いられたのはたしかだろう。そんななかでのトップスタート! コンマ10! 中谷朋子の強さを改めて見せつけられた。
しかし、レース後の中谷は派手に喜ぶわけでもなく、穏やかに微笑んでいるのだった。表彰式から戻った中谷に、おめでとうございます!と祝福すると、それまでも微笑んでいた中谷は、さらに目を細めて、柔らかく頭を下げた。それは、変な意味ではなく、実に色気のある表情だった。
いやあ、いろいろな意味で、この人は強いなあ、と思った。
その微笑を、来年はもう一丁、上の舞台で見せてください! 予選トップからの王道3連続イン逃げを決めた中谷には、それを期待するしかない。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)