BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――準優勝戦

 

「SGが獲れるなら女を捨てます!」

 小野生奈の口からその言葉を聞いたのは昨年の3月のこと。初めてのオールスター出場が決まった直後にインタビューをした際だった。

 ピットリポートの代打のため、今日、大村に入ることが決まっていた私は、準優18ピットに彼女がいることを期待していたが……残念ながらそれはかなわなかった。

 6R後にピットに行くと、江崎一雄の水神祭を手伝い、そのまますぐ自分の整備作業をしていた彼女を見つけた。

 そこで、そのときの言葉のことを振ってみると、「それは変わってないです」と即答!

「少しは近くに感じられましたか? 遠さを感じましたか?」と聞くと……。

「遠いです!」「あまくない!」「出直したいです!」と矢継ぎ早に答えが返ってきた。

 悔しさは残っているのだろうが、その笑顔は明るい。本日は3Rの一回走りだが、試運転も繰り返していた。

 SGを獲る……というのは簡単なことではないが、女を捨てると口にするまでの覚悟があるなら、そこを目指して頑張ってほしいものだ。

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 さて、準優勝戦だ。

 10Rでは、太田和美が強烈なまくり差しを決めて、丸岡正典を負かしたが、レース後、ピットに引き上げてきた太田は、まったく表情を変えなかった。

 当たり前のことをやってきたといわんばかりの風情なのだから、なんともすごい人だ。

 それでもレース後の共同会見では、「丸ちゃんとのワンツーはあんまりないことなので、SGの準優でやれてよかった」と笑みを見せていた。

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“師弟ワンツー”といっても、この「順番」でのワンツーは、1号艇・丸岡にとってはあまりに複雑か……。

 共同会見が始まっても、丸岡は背後のモニターに映されるリプレイに見入って、出るのは溜め息ばかり……。

「こりゃないわ」というようなことをボソリと呟いていた。

 それでも、会見では、ほんわかな丸ちゃん節を炸裂させて、言葉は少なくても表情だけで記者たちを爆笑させる“高度な技”を見せていた。

 独特の空気感なのである。

「レースは現状のベスト。力がなかっただけです」と素直に認めてしまうところも、丸ちゃんらしいところか。

 ただし、「(このモーターなら)誰が乗っても優出はできたと思います」とも言っていたのだから、丸岡が乗ったら「それ以上」になるのだというところをしっかりと見せてほしい。

 

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 11Rは、レース前のピットで選手が見せていた「顔」がそのまま出たようなレースになった。

 一人は、下條雄太郎だ。

 彼は早い時間帯から気合いパンパンの顔をしていたが、レースではしっかりコースを獲りに動いた。

 6号艇からの3コース進入! 結果は5着になったとはいえ、地元選手が、こうした気持ちの入ったレースをしてくれるのはやはり嬉しい。

 レース後、傍にいた関係者に見せるため、わざと悔しい顔をみせていたが……、わざとやらなくても、その顔をつくる前から唇を噛みしめていたのだ。それでいいのだと思う。

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 レース前、「気配の良さ」をプンプン漂わせていたのが服部幸雄だ。時間いっぱいペラ小屋で調整作業をしていたが、レースが近づいていくと、すっと力が抜けたような顔になり、周りの選手たちを笑わせていた。

 やることはやった、という充実感にあふれていたが、それがそのまま結果につながったといえるのか、1着!

 レース後しばらくしてから、今日はテレビ収録があるためにこのブログの更新をできない黒須田が、「松井さんと服部さんの絡み、見ましたか?」と僕に対して訊いてきた。

「……いや、見てない」と答えると、なんとこの男は「ヘヘン!」と返してくるのだから、とんでもない人間性だ。

「どうだったの?」と聞いても、「教えない!」と返されるのはわかっているので、癪だから聞かなかった。

 およそ想像はつくが、いかにも親友、いかにも戦友な、格好いいシーンがあったのだろう。たとえば無言のハイタッチとか……。かなりの確率で「当たり」じゃないかと思う。

 12R後には、並んで歩いているところを見かけたが、それはやっぱり、ただ一緒にいるだけでも「絵になりすぎる戦友2人の図」であるわけだ。

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 このレースの2着は桐生順平。彼もまた長くペラ小屋にいた一人だが、とくべつな印象はなかった。

 いい意味で印象に残る部分がなかったのだ。

 SG準優、SG優勝戦に名前があることが当たり前の選手になっている。そういう選手として、やるだけのことをやって準優を迎え、結果を出しているわけである。それだけ溶け込んでいるということだ。

 共同会見でボートレースクラシックにおける1号艇優出との気分的な部分での違いを聞かれると、「正直、全然違います」と答えていたが……。「勝ちに行くレースをする?」と問われると、「もちろんです!」と即答していた。そこに迷いなどがあるはずがない。

 ……レース前、いつもと変わらないように見えていた1号艇=湯川浩司はフライングを切ってしまった。このフライングを精神的な部分と結び付けて語る必要はないだろう。フライングを切ったあと、ひとり先にピットに引き上げてきたときも、内心はどうあれ、厳しい顔つきをしながらも、しっかりと前を向いて歩いていた。簡単にはへこたれない男であるはずだ。

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 12Rの1着は山崎智也。

 激戦の末、2着を取り切ったのは池田浩二だ。

 レース後の共同会見は、池田が先だったが、最初の言葉が「……疲れました」だった。その言葉がいかに激戦だったかを物語る。

 優勝戦のコースを聞かれると「そろそろ動いてもいいかなとも思うんですが」と気になる発言!

「そろそろとは?」と突っ込まれると、「あまり印象付けたくはないんです。僕の前付けは4年に一度ですから」と池田節も炸裂させている。

 明日は6号艇……。

 池田が本当に、4年に一度の「その気」になってくれたなら、進入から楽しみになってくる。

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 ピットに引き上げてきた智也は、ヘルメットを脱ぐときに、少し不機嫌なような顔を見せていた。

 それがそのまま絵になっているのだから憎い男だ。優勝戦のポールポジションを獲得しても、簡単には表情をゆるめないのが智也なのである。

 共同会見でも、淡々と質問に答えて、優勝戦に向けての締めの言葉を求められても「一生懸命、がんばります」とひと言。“オチなし”で終わってしまうのかとも思われたものだが……。

「予選道中でのポイントとなるレース」を問われると、しばらく悩んだ末に「女の子に抜かれたレースですかね」と苦笑した。

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 小野生奈のことだ。

 本人は聞いてなかったはずだが、この言葉をどう受け取るか? 

 そんなこともまた、大いに気になるところだ。

(PHOTO/中尾茂幸=小野生奈、池上一摩=その他 TEXT/内池)