BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――中里よ! 滝川よ!

 

 

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「ユウコ! ユウコ!」

 水口由紀がジャンプしまくっていた。前年度クイーンが興奮しているのは、同期の中里優子が先頭を走っているから。70期から2年連続で女王が誕生か!? その瞬間を信じて水口は、中里の先頭ゴールを目に焼き付けようとしていたのである。

 後ろから迫るは滝川真由子。なかなか差が開かない。水口はさらに「ユウコ! ユウコ!」と飛び跳ねる。なんとか中里はこらえていたのだが、しかし……2周2マークでついに捕まる。その瞬間、水口の「ユウコ!」は悲鳴に変わった。さらに3周1マーク、完全に先んじられてしまった瞬間、水口の「ユウコ!」が泣き声になった。一気に精気が水口から抜けていき、肩が落ちていく。中里も諦めずに追ったが、万事休す。水口は巨大な溜め息をついていた。

 そこに寺田千恵があらわれた。瞳が涙で濡れている。

「ユウコだと思ったのにぃ……」

 と涙を流し、鼻をすする。テラッチも中里の優勝を願い、道中は信じ、そして落胆した。

 同世代の仲間たちは、中里優子がいかに苦労して、ここに辿り着いたのを知っているのだ。だから、獲ってほしかった。花を咲かせてほしかった。

 

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 もちろん、中里自信が誰よりもそれを願っていた。だが、道中はやや腕が固まってしまったか。大事に回り過ぎている印象があって、それが滝川の思い切った追走に捉えられた要因に思えた。それを中里自身、自覚しているはずだ。ピットに戻ってきた中里は、まったく表情をなくしていた。そこに、日高逸子がねぎらいの声をかける。中里は、言葉にならない返事を返して、口ごもった。その瞬間、こみあげるものがあったのか、一気に何かをこらえているような顔つきになっていた。

 今日は打ち上げがあると聞く。その場で、いやもしかしたら、すでに控室で、水口や寺田や岩崎芳美や角ひとみらが中里とともに涙を流し合うことになっただろう。外野としては、次の機会に必ずリベンジを果たしてほしいというありきたりな言葉しか浮かんでこない。ひとつだけ言えるとするなら、レディースチャンピオン史に残る、いや、女子レース史上に残る、最高の名勝負だった。それを演出したのは、まず中里優子である。

 

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 名勝負を演出したもう一人が、滝川真由子だ。そう、ニューヒロイン! 1周2マークで捌かれながら、諦めることなく追いかけ続け、2周2マークで並びかけた! 癒し系のルックスながら、芯にある執念は実に強い。それを見事に表現した逆転劇だった。

 執念といえば、優勝戦メンバーのなかで、最後まで調整をしていたのが滝川だった。他の5人がすでに準備を終えて控室へと戻るなか、滝川はペラ室に一人、向かっている。たまたま片づけをしていたのか、それともそれを見て激励に行ったのか、ペラ室には同期の樋口由加里の姿もあった。樋口に見守られながら、ペラを調整する。ただし、すでに試運転が許される時間帯ではなかった。それまでの手応えをもとにペラを最終調整し、それを信じてレースに向かったのだ。その調整が奏功したのかどうかはともかく、妥協することのなかった滝川のメンタルにも、勝因があったのではなかったか。

 勝って帰ってきた滝川は、山ほどの報道陣や仲間に囲まれて、とろけるような笑顔を見せていた。だが、その奥にあるのは、気持ちの強さ、だと思う。滝川の勝利は単なる運や展開ではない。確実に滝川のなかに、勝つべくして勝った理由は根付いている。

 

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 敗者のなかで露骨に悔しそうな表情を見せていたのは、想像している方も多いだろう、やっぱり平高奈菜だ。ピットに戻ってきたときの表情は、まさしく憤怒。何に対してかといえば、これはもう、自分に対してだっただろう。目つきの鋭さはもうハンパなかったです。控室に戻る平高とバッタリ進路が交錯しそうになったとき、平高の目を見て、僕の足は止まった。ついでに動きも止まって、平高は強烈な表情で僕の横を通り過ぎて行ったのだった。

 

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 山川美由紀の表情も、やはり険しかった。優勝戦に入れば、やはり足はひとつふたつ足りなかったか。地元レディチャンへの思いは、平高ともども、並大抵ではなかっただけに、この敗戦はただただ悔しい。スタートを行けなかったこともまた、山川のプライドを傷つけるものだったと思う。

 ひとつ言えるのは、平高にも山川にも、そして平山智加にも、地元の思いというものはしっかり見せてもらった、ということだ。宮島グラチャン、三国オーシャンで見てきた感動的な地元水面への思い入れは、今節も間違いなくあった。それがボートレースに一枚ホットなものを付け加えているのは確かなことだ。それを見られただけで、彼女たちは称えられるべきだし、今日の敗戦をしっかり癒してほしいと願うばかりだ。

 

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 大瀧明日香と細川裕子は、比較的淡々としているように見えた。まあ、悔しくないわけがないのであって、たとえば大瀧はポールポジションを活かせなかったわけだから、その忸怩たるや大きいだろう。それがあまり表立っていなかっただけだと思う。

 

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 細川もまた、足的には充分狙えただけに、結局はスローを選択した進入も含めて、思うところはたくさんあるはずだ。チルトは跳ねずにスローをチョイス、というのはじっくりと考えた末の結論だろう。それが活きなかったことで、細川はまた何かを考えさせられたはずだ。またこの舞台で、腹を据えた戦いぶりを見せてもらいたい。

 

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 さてさて、滝川はもちろんレディチャン初優勝にしてGⅠ初優勝。となれば、もちろんやります、水神祭!

 すでに丸亀は漆黒の闇のなか。でもそんなことは関係ない!とばかりに、同支部の池田紫乃、同期の樋口由加里に遠藤エミ、九州地区の小野生奈や竹井奈美、さらには世代の近い選手が集結して、盛大に行なわれている。しかも延々と。

 参加した選手が全員飛び込むのはお約束。今日はそれだけでは済まなかった。陸に上がるやふたたび落とす、が連発し、最後は池田が豪快に一回転して自分で飛び込んだりもしていた。テンション高すぎっす!(笑)

 嬌声は実に長い間響いていて、いったいいつ終わるんだと心配になったくらいだ。滝川はそんな仲間たちを見つめながら、見る者をキュンとさせるような表情で微笑んでいた。最後は、垂れ目ポーズで記念撮影。やっぱり選手間でも評判なのね、滝川の垂れ目は。

 

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 というわけで、滝川真由子、おめでとう! これでクイーンズクライマックス出場も見えてきたし、来年のボートレースクラシックの優先出場権は得た。またひとつステップを上がることになるのだ。そうした舞台でも、垂れ目の柔らかなルックスと、その奥にあるたくましい芯で、大仕事を見せてくれ。本当におめでとう!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)