BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――12R、空気が一変……

 

 

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 その瞬間、装着場は一気に人の気配でぞわぞわとした。静まり返っていた装着場に、一斉に選手たちがあらわれたのだ。

 12R2周2マーク。徳増秀樹との接触で瓜生正義が転覆した。それは誰が見ても、かなり危険な接触シーンだった。蒲郡のピットは対岸、2マーク寄りにある。2マーク付近は、装着ばから目視できる。瓜生の容体は!? 大丈夫なのか!? そんな思いが沸き上がったであろう選手たちが、それまで観戦していた整備室などを飛び出て、レースのゆくえには目もくれず(事故レースだから着順の入れ替わりなどはありえないわけだが)瓜生に不安なまなざしを向けたのだ。

 あの西山貴浩も、ただならぬ顔つきになっていた。

「今のは危なすぎますよね……」

 普段の陽気さはまるで影をひそめ、心配そうにつぶやく。それから間もなくレースは終わり、選手たちはエンジン吊りのためボートリフト前に移動したのだが、視線はつい2マークに向いていた。西山は、同じレースに岡崎恭裕が出走していたため、そちらに向かわねばならない。しかし、目は不安そうにレスキューを追ったりしていた。

 やがてレスキューがピットに到着。川上剛がエンジン吊りは後輩に任せて、こちらに駆けつけている。担架が用意されて、ふたたび緊張が走るが、瓜生が自力でレスキューを降りた! 少しだけ、安堵の溜め息が出る。ただし、やはり体を痛めているのは一目瞭然。瓜生はやはり自力で歩きだしたが、時折立ち止まったりして、それを川上が支えている。痛々しい……。そこにボートをいち早く飛び降りた徳増が駆けつけ、頭を下げながら川上とともに瓜生を支えた。遠目なので瓜生の詳しい様子は見えなかったが、逆に徳増を瓜生が気遣ったであろうことは想像に難くない。

 

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 そんな暗いムードは、エンジン吊りの間も払拭されていなかった。4カドから王者をまくり切った岡崎恭裕も、瓜生の身を案じてもいただろう、やはり弾けることができないでいる。岡崎を出迎えた福岡勢も、なにしろ先輩が転覆したのだから、岡崎に向ける表情もどこかカタくなっていた。本来なら、岡崎を中心に歓喜の輪が生まれていてもおかしくないシーン。それを自重するというよりは、選手としてのごく自然な感情として、瓜生への思いがまとわりついているように思えた。

 

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 瓜生はもちろん傷ついたが、徳増も相当に傷ついただろう。自分の走りが、相手に肉体的なダメージを与えた。これは選手にとって、もっとも辛いことのひとつのはずである。プロとしての矜持としてもそうだし、周囲の目も意識してしまったりするのではないか。徳増は瓜生とともにいったん控室に消えた後、ピットに戻っている。ボート交換のため、その手続きを検査室で行なう必要があったのだ。この手続きには立ち会い人が必要。徳増はそこで地元の池田浩二を呼び寄せたのだが、その声がやけに大きかった。このときだけではない。瓜生のもとに駆けつける前、徳増はエンジン吊りを任せるため、後輩に「ボート見といて!」と声をかけてから駆け出している。その声も、やけに大きく響いた。うがった見方と言われるのを否定しないが、僕にはそれが「自分への苛立ちの発露」に思えた。あんなレースをしてしまった、そんな思いにとらわれたことで生まれた、自責の念。こういう結末になって、気軽にドンマイとか言うわけにはいかないが、今夜しっかり自分と向き合ったなら明日からはふたたび、前を向いて60号機を活かす走りを見せてほしい。それが瓜生に対しても、ひとつの償いになるのではないか。

 

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 こんなふうに、大きな事故はピットの空気を一変させる。それを経験してしまうと、やはり無事故の大事さを痛感し、できればこういうシーンを見たくないという思いになる。また、レースには付き物とも言えるこうしたシーンを見ると、僕はいわば外野の人間だが、心は痛む。救いは、明日の出走表に瓜生の名前があること! 明日のスポーツ紙などには、瓜生のコメントも載るだろう(事故後にも報道陣に応えることができたのだ)。出走するからには、瓜生正義らしいレースができるものと信じる。転覆はもちろん選手責任外なので、2日目を終えての予選順位も19位に留まった。巻き返しが充分可能な、いや、予選争い上は致命的な状況を強いられているわけではない。瓜生がんばれ。舟券上はシビアに対処するかもしれませんが(6号艇もあるしね)、今日の転覆にくじけることのない瓜生の奮闘に僕は注目します!

 

 取材メモにはいろいろと書き込みがあるのだが、取材していた僕の気分もあの瞬間に一変してしまった。選手の皆さん、明日も元気で、ケガなく奮闘を! もちろん、そのうえで大胆で豪快なレースを見せてくれ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)

 

 

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メモ程度ですみません! 逆転3着の後の川上剛は、納得いかないという風情で首を傾げていた。まだ機力は仕上げ途上か!?

 

 

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元志は超ゴキゲン! 足取りは超軽やかで、表情もめちゃくちゃ明るかった。立ち入り制限用のポールを軽々と飛び越えていたぞ!

 

 

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池田浩二が本体整備! 明日はかなりの仕上がりになっていると見たが、果たして。