池上カメラマンが「入っている人と余裕たっぷりの人に分かれますね」という。準優組について、ファインダー越しにはそんなふうに映っているらしい。なるほど、たとえば原田篤志の表情がすごい。大一番に向けての緊張感と言うよりは、強烈な気合が顔つきにあふれている。原田は1R発売中には試運転から上がっていて、すなわち早々に水面で手応えを確かめていたわけだが、確信とともに調整に向かう姿は力強い。優出への決意がハッキリと、その立居にあらわれている。
土屋智則からも伝わってくるものは大きい。大きな舞台で結果を出す。そのことを強く欲しているようにしか見えない。というのはもちろん先入観であって、土屋の周囲はいま、刺激にあふれている。先輩である山崎智也と毒島誠の強さ。すでにグランプリのベスト6まで手に入れている強豪が、身近にいる。また9月に同期の池永太がGⅠを勝った。97期最初の記念ウイナー。それらを見ながら、土屋に強い思いが生まれないわけがない。まあようするに、非常に気合を感じる表情や振る舞いなのだが、土屋の置かれている状況も思うと、そこにある決意の大きさを思わずにはいられないのである。
今垣光太郎はまあ、いつも通りに“入っている”。SG準優だからというのではなく、レース前の今垣はいつだって集中しすぎるくらい集中している。今垣も早くから着水して水面に出ている一人で、やはり1R発売中にいったん上がってきている。水にぬれたボートやモーターを布で磨き上げていて、これは今垣のルーティン。しかしそれは、気持ちを集中させるための作業のようにも見えてくるものだ。
石野貴之も、まあいつも通りだ。特にこうした勝負どころでの石野は、視線を送るのがためらわれるほどに、鋭い表情を見せている。また、視線を寄せ付けない雰囲気もある。当然、声をかけてくれるなという雰囲気も。とにかく凛々しすぎるのだ。
石野の作業はペラ調整だったが、2R発売中にはペラを装着し、次の動きに移る気配を見せていた。石野はオーシャン優勝後、賞金ランク6位以内でグランプリに行くことにこだわる発言をしている。石野は現在6位。あと2つSGがあるわけだから、このままでは簡単に蹴落とされる位置にいる。自力でランクを上げるしかないのだ。その決意が、今日の石野にあったと言ったら考え過ぎか。少なくとも、石野の脳裏には常に6位以内という意識があるとは思う。
わりと余裕がある選手は、といえば、まずはやはり太田和美か。決して緩んでいるわけではなく、緊張感も漂わせながら、しかし己のペースをまったく崩してないように見える。まだ調整に向かう様子もなく、だからたたずまいは非常に落ち着いて見えるわけだ。
では、2R発売中に着水した松井繁はどうか。かなり早い動きのようにも思えるが、しかし慌ただしく動いている様子ではなかった。機力が劣勢というわけではない。だから、パワーアップを急ぐ必要はない。だが、もちろん気は緩めない。水面に出て、調整して、また水面に出て、また調整して、王者は臨戦態勢を整えていくだろう。雰囲気からは死角がないようにすら見える。
ではでは、守田俊介は? うん、正直言って、わからない。基本的には昨日までと何も変わりません。まだ調整もしてません。2R発売中にペラを装着したので、試運転に出るタイミングはまあまあ早そうだ。かといって、やはり慌ただしくもなく、飄々としている。当然いろいろな人が声をかけていて、それには微笑みを返してもいる。JLC解説の沖口幸栄さんには、激励なのか、背中をどんどんと叩かれて、満面の笑みを返していた。ということは、余裕? まあ、そうは見える。ただ、2Rエンジン吊りに真っ先に出てきて、仲間の帰還をひとり待つ表情に、若干の緊張の色が見えたのだけれども……果たして。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)