BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――誰もが称える優勝!

 

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 決して楽な勝利ではなかったと思う。レースでは竹井奈美の意表を突くツケマイ。気配を感じて対応はできたというが、慌ててハンドルが狂ってもおかしくない場面だ。そもそも、今日は調整が合わずに、乗りにくさがあったという。そんななかで的確に旋回できたのは、これまで培ってきたものが活きたということだ。

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 午後3時40分頃、松本晶恵の姿はまだペラ室にあった。辻栄蔵も真っ青のギリペラだ。僕はそこに少しばかりの不安を感じた。優勝戦1号艇の選手が、こんなに遅くまでペラを叩き続けたのを見たことがない。それが辻なら話は別だが、松本のそれは調整を合わせ切れていないがためのものに見えたし、もう試運転も不可能な段階で、このひと叩きが奏功する可能性は高くないように思えたのだ。優しく丁寧な叩き方だったから、それは微調整のレベルではあっただろうが、もしかしたら松本は万全でピットインできないのではないかという恐れは残った。なお、それよりもさらにギリギリまで叩いたのは遠藤エミ。11R発走の時間がかなり近くまで迫った段階まで、展示ピットの1号艇と5号艇は空いたままだったのだ。

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 結果、僕が感じた不安はまさに杞憂だった。たしかに調整は完璧ではなかったけれども、ボートレースは調整競走ではない。勝てる仕上がりにもっていき、堂々たるターンで竹井を受け止め、他の4人をも寄せ付けなかったのは松本の力である。素晴らしい優勝だった!

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 松本が先頭で3周2マークに差し掛かったとき、試運転用の係留所で観戦していた10人ほどの選手が全員、バンザイをして松本のほうに手を振った。それが見えていたかどうかはわからないが、そこにいた選手すべてが松本を祝福したのだ。今節、群馬支部はシリーズのほうにも他にいない。98期生はともに戦った平山智加だけだ。つまり、支部も期も違う選手たちが揃って松本の優勝を喜んでいたのだ。そこには、長嶋万記を応援していた静岡支部の選手も、寺田千恵を応援していた岡山支部の選手もいた。その敗戦は悔しいものであっただろうが、松本の勝利はそれを超越して祝福すべきものだったのだ。

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 松本がピットに戻ってきたあとも、次々と選手たちのおめでとうコールが浴びせられていた。寺田も笑顔で松本を称える。同期の平山は本当に嬉しそうに、松本に駆け寄った。敗者のことをざっと触れると、どの選手も意外とサバサバした感じで、大晦日のファイナルを戦った充実感も見えたように思う。やや表情が硬かったのは遠藤とレース直後の平山くらいか。悔しさは当然腹の底にはあっても、わりとスッキリした雰囲気になっていたと思う。そして、勝者の顔を見れば、素直に称える。なかなかに素敵なシーンであった。

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 松本は会見で、前節でSGを走れたことが大きかったと言った。そこで学んだものがたくさんあったのだ。シリーズを終えた足で上京し、すぐに開会式やら前夜祭やらがあって、ほぼ中0日で今節を走った。体は疲れているだろうが、この連戦は得るものが大きかったのだ。で、明日は桐生正月開催の前検(笑)。僕は明日は寝正月の予定だが、なんだか申し訳なくなってくるな。しかし、女王として凱旋する地元戦はまた気分が違うだろうし、そこには山崎先輩や毒島先輩や江口先輩ら、学ぶべきものを多く持っている強豪が揃っている。この濃密な3週間ほどを経て、松本晶恵はさらに飛躍するだろう。これでSG出場の権利も獲ったわけだから、ステップアップの機会をさらに得て、今は先行する同期の平山に迫っていく。今日は平山が残念だったが、いつかこの舞台で同期ワンツー。それももはや夢物語ではない。

 

<シリーズ>

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 手放しで「メイちゃんおめでとう!」と言っていいものかどうか、よくわからなかった。去年は12Rを優勝した人なのだ。もちろん、連覇したかった。少なくとも、トライアルのほうを走りたかった。川野芽唯が今年も大晦日に優勝。メイちゃんがどう思っているかはともかく、僕は少しだけ複雑だった。

 しかし、川野はいい笑顔だった! 優勝者はピットに戻ると、テレビのインタビューやら表彰式やらに連れ回されるわけだが、それを待つ川野に、モーター返納を終えた選手たちが「おめでとう!」と声をかける。それに川野はニコニコと応えていたから、レースの格はなんであれ、優勝はうれしい! それも、大瀧明日香がのぞいてくるという、やはり楽なイン逃げではなかったから、安堵感も大きかっただろう。去年より賞金も少ないけれども(笑)、祝福すべき優勝なのだ。

 この優勝は、「来年の大晦日はふたたび12Rで!」と決意を強くさせるものにもなったと思う。こちらもまた素晴らしい優勝だった。メイちゃん、本当におめでとう!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)