平田忠則といえば、スマイルファイター。人のよさそうなニッコリとした笑顔は、まさにトレードマークだ。もちろんピットでも、よく見かけるし、こちらに向けてくれることもある。ただし、レースが間近に迫った時間帯では別だ。2R発売中だったと思うが、今朝、平田忠則とすれ違った。平田は会釈をしてくれたものの、スマイルはなかった。むしろ不機嫌にすら見える顔つきだった。もちろん機嫌を損ねていたのではなく、4Rに向けて気合が入っているのだし、緊張感も高まっているのだし、神経を集中してもいるだろう。平田は純粋にファイターとなっていたのだ。
今日の平田はピンピン。2号艇、4号艇での勝利だ。勝った10R後、平田が小走りで工具を取りに向かうとき、レンズを向けた。それに気づいた平田は、駆けながらもニッコリ! 残念ながら、最高のスマイルはピントを外してしまったが(掲載写真にしてもややピンボケ)、持ち前の笑顔を自然と浮かべた。当たり前だが、そのとき置かれている状況によって、選手の雰囲気は変わる。ピットは戦場でもあり、休息の場でもあり、選手は闘士でもあり、一人間でもある。
笑顔にもいろいろある。11R、前付け実らず大きな着をとってしまった江口晃生は、ピットに戻ったときには笑っていた。ただし、THE苦笑とでも言うべき、苦い苦い笑顔だった。笑うしかないという敗戦は誰にでもある。いや、前付けも繰り出して、何とか食らいつこうとして、勝利への執念を燃やしての敗戦にこそ、そうした場面は多いかもしれない。江口はそういうスタイルだからこそ、こういう顔になりやすいとも言える。THE苦笑は、勝ちたくて勝ちたくて仕方がなかった思いの裏返しでもあるのだ。
今村豊の場合は、とにかくおどけて愚痴をこぼしつつ、やはり苦笑に近い笑顔を浮かべる。11Rでも、スリット写真を指差し、自分のほうが勝った石野貴之より前にいるのに先攻めできなかったことを、大声で大仰に愚痴る。その様子はそれを見ている者をむしろ笑顔にし、周囲が楽しげになっているのを見た今村はなんだか満足そうだ。もしかしたら、これが今村流の憂さの晴らし方か? ピットの今村は、時にエンターテイナーとなる。ハッピーバースデー、ミスター。これからも元気に僕らを笑わせてください。
師匠に笑顔をバースデープレゼントで送ったのは白井英治だ。12R、4コースから展開を突いて、見事に勝利。8Rはインでまさかの敗戦を喫してしまったが、どうやら1マークでうねりに乗ってしまったらしい。その分を巻き返す勝利が、今村師匠の誕生日ウィン。得点率ランクも好位置つけて、気分は上々であろう。
10R、湯川浩司が5着。悔しいに決まっているのだが、湯川はなぜか笑っていた。というのは、井口佳典が大爆笑していたからだ。リフトで湯川が上がってきた時点で笑っていたのだが、エンジン吊りが終わっても、井口は笑い続けていた。そりゃもう、湯川も笑うしかないよね。なぜ笑っていたかはわからなかったが、お互いをボロクソにけなし合う銀河系だから、その類いかも。そのけなし合いこそが、強い絆の証し。仲間が優勝して、最も喜ぶのも銀河系軍団なのである。
最後に山崎智也! 前人未到の同一SG3連覇は、ほぼ不可能になった。繰り返し繰り返し書いてきたように、負けた時ほど笑い、それで悔しさを隠そうとする智也だが、今日の10R後の笑顔をどう解釈したらいいだろうか。ちょっとした異変もあった。鳴門の宿舎はピットと隣接しているが、それでも帰宿の1便が10R後に出る。もちろん徒歩移動だ。智也は1便の常連で、特に10Rに出走しているときには、大急ぎでモーターを格納し、着替えもして、風のように1便に加わって帰っていくのだ。しかし今日は、1便集合のアナウンスがあったあとに、智也を整備室で見た。居残ったのだ。特に意味のないことかもしれないが、実に気になった。とにかく、3連覇ならずは残念!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)
おまけでこの人のスマイルも!