慌てず騒がず、ということだろう。1~2Rの時間帯、ピットでは準優組が見られる場面は非常に少なかった。やみくもに調整すればいいわけではない。やみくもに試運転をすればいいわけではない。長いキャリアのなかで、準優勝戦をどう過ごしていいのかを知り尽くしているマスターたち。そんな印象を受けた。
大きな整備をしている選手もいなかった。整備室の整備状況パネルも、13番がキャブレター調整をしたらしき表示しか出ていない(13号機は松井繁)。プロペラ調整所もこれまでよりずっと人口密度が低く、整備室奥の調整所では渡邉英児が、整備室出入り口脇の調整所では倉谷和信が木槌を振るうのみ。屋外の調整所を見るために移動したら、西山昇一が一人訥々と調整を続けるだけ。それぞれ、木槌を大きく振るうような徹底的な調整というわけではなさそうだった。
1R終了後に、渡邊伸太郎が水面に向かった。朝の特訓は別として、最初に水面に向かった準優組だ。ただし、2R発売中には陸に戻ってきており、「朝乗ってみて調整を考える」の「乗ってみて」の部分の遂行かと思われる。その後、田中信一郎も水面へ。予選トップながら、「よくて中堅」というコメントを出しているだけに、万全にできるだけ近づけるべく、早くから動いたか。なお、地上波放送のインタビュー収録のとき、なぜか「S・WATANABE」と背中に入ったジャージを田中は着ていた。渡邊伸太郎、でしょうね。まあ、伸太郎から借りただけでしょうが。
大きな作業をしているわけではないけれども、ピットで目立っていたのは野添貴裕だった。赤いTシャツにピンクのズボンだから、視界に入ってきやすいのだ。野添はそのいで立ちで、長いことペラの翼面を見つめていた。準優組のなかでも出ているほうだとは思うが、チェックには余念がない。
あと、どうでもいいことだが、今節はずっとマスクをかけて作業等していた仲口博崇の顔にそのマスクがなかった。マスクをしていたせいなのか、妙に寡黙な印象があった今節の仲口。45歳とは思えぬ若々しい表情をあらわにしたのは何か意味があることなのかどうか。12Rは展開のカギも握りそうなだけに気になる。
地元で唯一の予選突破となった田頭実は、ゆったり穏やかに過ごしている。調整作業を始めた様子はなく、レースになると出走待機室のモニターを柔らかな表情で見つめ、3周2マークが映し出されたころにボートリフトへと向かう。そして、今村暢孝らと談笑を交わす。2Rを勝った藤丸光一とも楽しそうに話していた。いい精神状態で過ごしていると言えそうだが、やがて闘将の魂に火がつく時間が訪れることだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)