係留所調整から上がってきた中田竜太が、ニヤニヤっとこちらを見ながら歩み寄ってきた。そして、ズボンに記された自分の登番を見せつける。
「おっ、荷物届いた?」
ウンウン、と中田は二度うなずく。ようやく到着しましたか! 2日目にして、自身のウェアとヘルメットなどなどで戦える中田は終始ニコニコ。ゲージも届いて、ここから調整のピッチも上がることだろう。なにより、テンションがアップしている様子なのが心強い。昨日までは決してビハインドにはならない、と見受けられる。
係留所では多くの選手がモーターを回して調整作業をしていた。中田は森高一真の隣での作業であった。その森高に、山本隆幸が声をかける。「1番で調整したんやろ?」。1番とは、レース場に備え付けの調整用プロペラの番号だろう。レース用より一回り小さく、白の塗料で塗られている。先にそのペラを使った森高に、山本はアドバイスをもらおうという算段のようだった。森高は言う。
「ナントカカントカで(よく聞き取れませんでした)、あとはチョロッチョロや」
チョロッチョロ? レーサーには伝わる擬態語なのだろうか。すると山本が返した。
「そのチョロッチョロが知りたいんやないかい!」
ダハハハ! 同期にもわかりませんでしたか。森高は適当に言ったものと思われる。そのやり取りを聞いて中田も「アハハハハハッ!」と爆笑。今日のピットも実に暑いが、森高がほのぼのとした空気を作り出しているのであった。
昨日、部品交換をする選手が目立っていて、それは2日目になっても変わらない。1Rから馬場貴也がキャリアボデーを交換。昨日も交換していたので、元に戻したのか、それとも。やはり昨日もキャリアボデーを交換した毒島誠が、早くから整備室にこもって本体整備に取り組んでいた。昨日は3着2本だが、まだ足りないところがあるということだろう。2R発売中には一段落つけて装着し、ボートを水面に下ろしていた。出番の9Rまで、必死の調整が続く。
2R終了後には、仲谷颯仁も本体を外し、整備室に持ち込んだ。5コースからいったんは先頭という場面を作りながら逆転負けの2着。昨日の感触もいまひとつだったようで、足色は自身のハードルを下回っているようだ。地元中の地元である若松で初めて戦うSG。万全な態勢を作り上げるべく、やはり必死に調整を続けていくわけだ。
その2R、仲谷を逆転したのは細川裕子! SG初出場で、水神祭! 勝利者インタビューのブースにやってきた細川は「嬉しい! 本当に嬉しい!」を連発して、高揚感をあらわにしていた。こんなにも大喜びしている細川を初めて見たぞ。「こんなに早く獲れるとは思わなかった」とも言っていたが、今年は東海地区選で準優に乗ったし、SGでも戦えるだけの地力は身に着けてきたのだ。1号艇なら十分勝ち目はあったと思う。これで昨日のゴンロクを巻き返すこともできた。さらなる大仕事をやってのけるのも見たいぞ。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)