BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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福岡オールスター優勝戦 私的回顧

円熟の46歳

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①吉川元浩(兵庫)07
②峰 竜太(佐賀)19
③茅原悠紀(岡山)10
④桐生順平(埼玉)07
⑤白井英治(山口)07
⑥平本真之(愛知)12

 私のややこしい迷走予想をあざ笑うように、ゲンコーが単純明快に逃げきった。スタートは例によってキレッキレのコンマ07! 今節の吉川のスタートタイミングを列挙すると06・08・08・06・08・13・07・07。4日目のコンマ13を除いて、精密機械のようにコンマ06~08の驚異的な数字を刻み続けた。71号機の図抜けた行き足があればこそ、という見方もできるが、「行き足が良すぎてスタートが怖い」とビビる選手も多いわけで、吉川の精神面の強さをこそこの数字群に認めるべきだろう。それとも、46歳にして動体視力が大幅アップしたのかっ??

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 実戦を振り返ろう。スタートの手前で、スタンドのあちこちから悲鳴や絶叫が湧きあがった。
「峰が遅れとる、峰が遅れとるっ!!」
 誰かが連呼した。そう、明らかに峰の起こしだけがタイミングを逸していた。おそらく打倒・吉川対策で全速スタートを意識し過ぎたのだろう。悲鳴を上げたのは峰、または吉川のアタマ舟券を買っているファンだったに違いない。2コースの壁のないスリットライン。勢い、3コースの茅原がすぐに峰を絞め込みはじめる。スリットから伸び返した峰が、そうはさせじとブロック。それをギリギリ交わしつつ、茅原は全速で吉川に迫ろうした。

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 だがしかし、もうそこに吉川はいない。節イチの行き足でいち早く1マークに辿り着いた吉川は、スピード自慢の後輩たちを置き去りにする美しい弧を描いていた。今日の1号艇を苦しめたであろう「うねり」も、吉川71号機には微塵の敵にもならなかった。

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 1着に関するレース回顧はここまでで十分だろう。46歳にしてSG連覇。しかも「平成最後のSG」と「令和最初のSG」を両取りする偉業。惜しかったのは4月の宮島マスターズ=準Vで、これも召し取っていたら「平成最後のビッグレース」も含めた「元号またぎの3冠王」だったわけだ。あ、福岡に関して言えば「福岡最初(唯一)のグランプリ覇者」だし「平成最後の福岡GI覇者」だしだし、地元レーサー顔負けの活躍ぶり。こうなったら11月の「令和最初の福岡GI」も頂点に立ってもらうとしよう(笑)。

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 まあ、これらの流れを一言にまとめると「強い!」だな。思えば、去年6月のGI福岡チャンピオンカップで優勝(5コースまくり差し、スタートはコンマ07!!)したあたりから、吉川の一大ブレークは始まった。吉川が手にしたモーターは低勝率でも噴いているように見えたし、実際に成績はうなぎ上りでアップしていった。パワー出しの自信がスタートとレースっぷりにも反映され、46歳の今がいちばん強いのでは?と思えるほどだ。来月の多摩川グラチャンでのSG3連覇(歴代タイ記録)も、あながち夢物語ではないだろう。

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 5月にして獲得賞金が約1億円(正確には9904万円、2位の白井は5800万円)と超ハイペースでぶっ飛ばす吉川。このペースのまま年末に黄金のヘルメットを被れば、夢の3億円レーサー誕生なんてこともありえるな。令和時代を煌々と照らす「新・中年の星」に拍手、拍手!

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              ★
 さてさて、シリーズ回顧も少々。初日にも書いたが、今シリーズを振り返ってもっとも印象に残ったのは「残酷なまでのパワー差」だ。吉川が超抜パワーで連勝街道をひた走る傍らで、王者・松井繁はじめ太田和美、中島孝平、新田雄史、毒島誠、重成一人、馬場貴也、女子では竹井奈美が目も当てられないほどの劣勢パワーで悪戦苦闘し続けた。

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 このワースト軍団から毒島、馬場、新田らは4、5日目あたりに最悪の状況から抜け出したが、松井、太田、中島(5日目に帰郷)のGPレーサーはどん底のままシリーズを終えた。もちろん、彼らがこの惨状を看過するわけもなく、日々懸命な整備に明け暮れた。たとえば松井は2日目にリング2本、3日目にリング1本とキャリアボデー、4日目に再びキャリアボデー……これらの手術で松井28号機が覚醒することはついぞなかった。

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「福岡のモーターはパワー差が激しい」とはよく聞く定説で、今節はこのセオリーがドンピシャはまったか。が、福岡のみならず「新型エンジンになってからパワー差が格段に広がった。ダメなエンジンは何をやってもダメ」と話す選手は多いし、フライホイールが換わったここ2年ほどは「出る選手と出ない選手にはっきり別れる」と言いきる選手も多い。おそらく、この残酷なパワー較差はすぐには是正されることはなさそうだ。
 果たして、艇界最高峰のSGでこんなにダメダメなモーターが多数存在していいものか。
 これが、今節の感想から派生する疑問符だ。BOATBoy「ボートレース時評」に登場する加藤栄師範代は「高いレベルのテクニックで競い合うSGで、パワー差があり過ぎたらつまらない。超抜エンジンはともかく、レースに参加すらできないワーストモーターはできる限りなくし、平均化してほしい」とことあるごとに語っている。今節、特にシリーズ前半は「実質的に4、5艇立て」というレースがどれほどあったことだろう。ワーストを引いた選手のファンはもちろん、6艇のスリリングな攻防を期待していたファンにとっても物足りないレースだったかも? ボートレース業界は「フライング撲滅運動」だけでなく「箸にも棒にもかからないワーストモーター撲滅運動」にも力を注いでいただきたい。

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 で、劣悪パワーの横行はしばらく続くとするなら、舟券を買う我々もその趨勢にしっかりアジャストする必要もあるな。たとえば、こんな感じか。
★初日~2日目あたり=いち早く劣悪パワーを見出し、舟券から消すことで効率を上げる。
★3日目から最終日あたり=いち早くワーストから脱出したパワーを見出し、穴選手として舟券に加える。
 この取捨を繰り返すだけで、効率よく美味しい配当をゲットできる気がするのだが、どうだろう。(photos/チャーリー池上、text/畠山)