無観客開催といえど、選手たちがやることは変わらない。目の前の一走に全力を尽くし、そのための準備を怠りなく行なう。前検日はまさに準備の一日。どの選手も普段通り、慌ただしく動いていた。その様子は、まさにいつもの前検の風景だ。
ドリーム戦に出場する６人は、班分けでは１班。いちばん最初にタイム測定とスタート練習を終える。その後に共同記者会見に臨み、おのおのがそれぞれの調整を始める。真っ先に会見を終えた大山千広は、すぐに調整に取り掛かった。時間をかけていたのはキャブレター調整。外回りと言われる部分だが、前検日はギアケースやリードバルブ調整をする選手は多いものの、キャブに手をつける選手はあまり多くは見かけないように思う。会見では感触を「あまり良くない」と言っており、それもあってのキャブレター調整だろう。ファン投票断然トップの責任感もあって、明日は取りこぼせない１号艇と意を強くする。
２班の岸恵子は、いきなり本体を割った。前検日に本体を扱うのもそうは見ない。そして、水面での感触がかなり良くなかったのではと推察される。鳴門は岸の地元水面。ふるさとのファンの姿はスタンドにないとしても、やはり気持ちは入るだろう。
そうそう、８班の西岡育未も大急ぎで本体を外していた。全部で９班編成なので、西岡がタイム測定とスタート練習を終えたのはかなり遅い部類。今日の作業終了まで、多くの時間が残されてはいないのだ。それでも本体を外す調整に取り掛かっていた西岡。彼女もまた、鳴門は地元水面。昨年のこのレースは途中帰郷となってしまっている。やはり今節への思いは強いだろう。
プロペラ調整所は満員御礼。それほど広くないスペースに、多くの選手が陣取っていた。目を引いたのは小野生奈。力いっぱいハンマーを叩き下ろしていたのだ。それは思い切りペラを叩き変えている光景。自分の形とまるで違っていたのか、手応えがかなり悪かったのか。もっとも、ちょうど１カ月前の津レディースvsルーキーズでも、節中ではあるが、同じ光景を目にしている。あるいはＳＧのピットでも。舞台がどうであれ、また無観客であったとしても、小野は変わらない姿勢で戦うのである。
ビッグレースではお久しぶりの平山智加もプロペラ調整だ。やはりこの人は女子ビッグのピットにいなくては、ですね。「年齢も重ね、しばらくレースから離れたのに、こんなに投票してもらえるとは思っていなかった」と会見で語ったが、いやいや、それも当然の存在である。その感謝を背負って戦う今節だが、前検の感触はいまひとつで、プロペラの形が大幅に違っていたそうだ。それもあってのペラ調整。明日の12Ｒまで、懸命な調整＆試運転が続くことだろう。
お久しぶりと言えば、鎌倉涼も！ 女子ビッグは15年クイーンズクライマックス以来である。４年以上もお会いしてませんでしたか。休んでいる間にモーターが変わったりしていて、いろいろ苦労もあっただろうが、さすがの実力派、復帰からすぐにＡ級に戻っているし、来期はＡ１級に返り咲きそうだ。その鎌倉も懸命なペラ調整。この一戦を完全復活のノロシとしたいところですね。
さて、無観客レースということで、多くの選手から「寂しい」という言葉が聞かれている。最近は本場の入場者も減少気味ではあるが、やはりお客さんの姿がスタンドにあってこそ、選手のモチベーションも上がる。昨年ダービーで満員御礼状態のスタンドを見て、山口達也が感激していたものだ。今回、ファンの人たちも残念に思っているだろうが、選手も同様。そして選手は、ＪＬＣやインターネットの画面の向こうにいるファンを思って闘志を奮い立たせる。
「私たちは与えられた条件でベストを尽くす。お客さんも、いつもと違う形かもしれないけど、楽しんでほしいです。マスクとかティッシュとかないものが注目されてるけど、あるもの――レースができることに感謝して、メッセージ性のあるレースができればいいなと思います」
長嶋万記は会見でそう力強く語っている。テレビ、ＰＣ、スマホの向こうからでも、ファンの思いはきっと選手に届く！ さあ、明日から思い切り楽しみましょう！（ＰＨＯＴＯ／池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
