終盤の時間帯になると、装着場は閑散。さすがに今日は試運転に出ている選手はなく、レース間にモーター音は聞こえてこない。プロペラ調整所には選手の数も多いけれども、本体整備をしている選手は見当たらない。プロペラゲージの調整テーブルには、太田和美を中心に三嶌誠司、室田泰史。おぉ、朝は74期占拠状態だったが、終盤戦は69期がここに集っていた。遠目では、三嶌と室田が太田にアドバイスを乞うているように見える。
その付近には、村田修次が椅子に腰かけていた。特に何をするふうでもなく、ただそこにたたずんでいるという雰囲気。近くでは、同支部の角谷健吾がペラを叩いていたので、時折言葉を交わしたりはしていた。とはいえ村田はやはり特に作業はしていない。ここまで好調の村田だけに、余裕綽々と見えてしまうのは当然だろう。
11R発売中には、今垣光太郎がルーティンのボート磨き。いつでもどこでも、このスタイルは変わらない。今日の10Rは1号艇で2着。これはなかなか悔しい一番だった。エンジン吊りが終わると、ぴたりと差された安田政彦の右側に寄り添い、足色の差をずっと問いかけていた。安田は微笑を浮かべながらうなずくのみ。こちらから見ると、今垣の一人語りにも見えるような絡みだった。それだけ足色にもレース結果にも納得がいかなかったのだろう。そんなレース後でも、ルーティンは欠かさない光ちゃん。あるいは、ボートを磨きながら10Rを振り返り、心を鎮めていたのかもしれない。
この10R後、今垣以上にはっきりと悔しそうにしていたのは石渡鉄兵だ。今垣と2番手争いを演じながらも、終わってみれば山一鉄也にも競り負けて4着。控室へと戻る表情は、これがあの穏やかで優しい鉄兵さんかと訝ってしまうほどに、厳しく、また慄えるような顔つきだった。まさに痛恨の一番だったのだ。
対照的だったのは9R後の深井利寿。4番手を走りながら素晴らしい旋回で徳増秀樹を逆転して3着を奪ってみせた。足色はかなり良さそうで、また見事な抜き上げだったこともあって、頬が緩むばかりだったのである。まだ1着はないもののオール3連対。明日からはやや人気になるかもしれないけど、引き続き侮れない存在であるのは間違いない。
11Rは西島義則が逃げ切り。いやあ、なんとも凛々しいレース後なのである。鋭い視線はレース前と変わらず、それでいて充実感が伝わってくる足取り。控室に向かう途中、わざわざ立ち止まって、後方を歩いていた濱野谷憲吾と吉川元浩に頭を下げている。普段の西島のレース後といえば、挨拶は後とばかりに早足で我先にと控室へと戻っていくというイメージ。それだけに、いったん立ち止まったのがさらに、西島の高揚を示しているように思えたのだった。それが、西島ゴキゲンの証しなのだろう。これで予選トップタイに立った。10年ぶりの名人位就位、おおいにおおいにありうるぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)