10R
印象的だったのは、関係者の方々が非常に喜んでいたことだった。竹井奈美は、新人のころから芦屋で何度も何十度も、あるいはそれ以上も、練習をしていたのだろう。もちろんレースに斡旋されることも多かったはずだ。艇運の係員さんだったり、整備士さんだったり、洗濯の方や清掃の方などピットで働く女性の方々だったり、竹井にとって馴染みのある方々がピットには揃っている。そして、竹井は新人時代から愛されてきたのだろう。その竹井が、芦屋のビッグレースで優出。もちろん竹井自身からも歓喜は見えたし、盟友と言うべき小野生奈も嬌声をあげていたが、とにかく多くの関係者が竹井に声をかけ、竹井がそれに応える場面が目立っていたのだった。誰もが喜ぶ竹井奈美の優出!
平高奈菜のレース後は、渋面が目立った。1マークは攻める格好となったが、そこにVロードはなかった。2マークで逆転して優出は果たしたが、1マークが反省材料だったり、あるいは仕上がりへの不満だったりにつながったことだろう。平山智加が声をかけても、渋い表情は剥がれない。ただそれは、勝負師の表情であり、好ましいものにも思えた。この思いが、優勝戦へと繋がっていくはずだ。
それにしても、廣中智紗衣はやはり悔しい一戦となってしまっただろう。ピットに戻ってきて、ヘルメットの奥に見える表情はカタく、痛恨の敗戦であることがまざまざと伝わってきた。エンジン吊りが終わるころにはやや表情が緩み、同じレースを戦った同支部の清水沙樹とは笑顔を交わしてもいるが、お互いに腰を抱き合ったときには泣き笑いのような表情にもなっている。後者のほうが当然、本音であろう。
11R
前年度覇者・岩崎芳美が今年も優出! 優出を果たした6名のうち、レース後のテンションが最も高かったのは間違いなくこの人だ。ワタシともハイタッチしちゃったほどなのだ。うーん、明日は⑤-全-全、買わなくちゃ。それはともかく、岩崎自身のテンションも高かったし、周囲もまた嬉しそうにしていたのは、やはりこの人のお人柄を皆が愛しているということだろう。岩崎の周囲には明らかに熱気があった。なんとも幸福感あふれる優出だったのだ。
それは報道陣というか、カメラマンの皆さんにも伝わったようで、控室の出入口前で待ち構えるカメラマンたちが岩崎にポーズを要請し、急遽の撮影会の様相を呈した。そのフラッシュの炊かれ具合が凄まじく、傍目から見ればそれは優勝者の撮影会なのだ。もしかしたら、誰よりも多くのフラッシュが炊かれたのではなかったか。岩崎も嬉しそうにフラッシュを浴びながらポーズをとって、これはもしかして明日の予行演習か、とも思われるほどなのだった。いやー、岩崎芳美、最高です!
勝ったのは遠藤エミ。こちらは粛々としたレース後で、それがかえって風格を漂わせる。松本晶恵が寄り添ったときには、穏やかな笑顔も浮かんだが、岩崎とは対照的に静かな歓喜のあらわし方なのであった。まあ、それが遠藤エミらしさではある。
その後方には、微妙な表情でうつむく守屋美穂の姿が。結果を見れば、減点10がすべてだったということか。バックでは4艇が並走した2番手争い、そこには守屋も加わっており、優出の可能性は十分にあったが、2マークを捌けずに後退。1号艇だったらおそらくはなかった展開に、守屋の思いは複雑なものがあっただろう。レースの綾というものもあるが、シリーズの綾というものもある。それに翻弄されてしまう結果だったということだろうか。
12R
小野生奈が快勝! 竹井同様、この芦屋水面を走りまくっていた小野だから、やはり関係者の皆さんも嬉しかろうと思うのだが、しかしなにしろ12Rの勝者だから、歓喜を分かち合っている時間はなかった。エンジン吊りを終え、モーターやボートの運搬を仲間に任せると、ヘルメットをかぶったままダッシュ! 向かったのは勝利者インタビューのブースで、小野は白いカポックを身に着けたままカメラの前に立っている。JLCをご覧の方は2日連続でこの姿を見たはず。昨日の12Rも1号艇で逃げ切り、まったく同じ行動をとっていたのだ。明日の12Rも1号艇、ウィニングランなどもあるため、さすがに同じ行動にはならないが、勝ったら3日連続、白いカポックのままドタバタと走り回ることにはなるだろう。
2着は大瀧明日香。大瀧自身はわりと淡々とした様子に見えたのだが、同支部の宇野弥生が満面の笑顔で右腕を突き上げ、大瀧とハイタッチ! 宇野自身は10Rで悔しい思いを味わっているのだが、先輩の優出に少しは気が晴れたかもしれない。
控室入口前で、大瀧もフラッシュを浴びている。やはり淡々としているというか、特にポーズをとらない大瀧を見て、動いたのは松本晶恵。大瀧の左腕をさっと持ち上げて、優出を称える絵を作ったのだ。松本もまた10Rで無念を味わったのだが、その後の行動はなんとも優しく、またウィットに富んでいたのであった。松本晶恵、最高!
ピットに戻ってきて、悔しそうに強く目をつぶって眉間にしわを寄せたのは田口節子。1マーク、攻めんとしたときに2コースの島田なぎさが奇襲の先まくりに出て、田口は勝ち筋を失うかたちになっている。悔やんだのはやはりあの場面か。島田の動きに気付いて差していれば、という思いと推測されるが、3コースが攻め役になることが多い現代ボートレースではままあるケースではある。田口は3周2マークで山川美由紀を逆転して3着に浮上しているのだが、優出を逃したことはそれでは帳消しにはならないと改めて実感する場面だった。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)