BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

最強の「第三の男」

12R優勝戦
①太田和美(大阪)15
②西島義則(広島)16
③原田幸哉(長崎)11
④飯島昌弘(埼玉)18
⑤金子龍介(兵庫)15
⑥上平真二(広島)22

 ベテランファンなら誰もが「天才レーサー」と認める男が、ピッカピカの45歳で第22代・名人位を襲名した。同じく“新人”の守田俊介、同期の瓜生正義を出し抜いての優勝、天晴れと言うしかない。

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 発売〆切の1分前、下関スタンドに駆けつけたらば、周辺の若者たちが発する言葉のほとんどに「ユキヤ」が入り混じっていた。
「ユキヤ、絶対に行ってくれよ~~!」
「とにかくスタートは行けよ、ユキヤッ!!」
「ユキヤ、まくれっ!!」
 あっと驚く、圧倒的一番人気?? もちろん、太田絡みの舟券がいちばん売れているのだが、配当的妙味とスリリングなレースへの期待値がまんま抜群パワーの幸哉にスライドしたのだろう。

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 最前列の柵(いわゆる「水かぶり」)まで辿り着いても、ユキヤフィーバーは変わらない。隣に陣取った3人の若者たちの会話は、こんな感じだった。
「とにかく、声が出るようなレースになってほしいな。叫びたい」
「だったら3-4。ユキヤがまくったら叫ぶに決まってる」
「だよなぁ、とにかくスタート行ってくれよ、ユキヤァ」
「贅沢は言わん、3-1でも叫ぶ」
「うん、でもいい。叫びたい」
 それは、あかん。3-1を買っていない私は、心の中で反発した。他の部分はまったく意義なし、とつけ加える。

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 ファンファーレとともに6人の勇者が一斉に飛び出すと、今度はさまざまな選手の名前が飛び出した。太田と幸哉をメインに、6人全員の名前が耳に届いた。そう、先だって「ユキヤ」を連呼した人々のすべてがユキヤの舟券を買っているわけではない。ユキヤという存在が暴れることによって、自分の応援する選手が勝ちに近づく。そのためにユキヤに活を入れてるファンも多いのだ。おそらく、太田のアタマ舟券を買っている人以外は。
 うん、やっぱこのファイナルはめっちゃ面白いわ。
 そう思っている間にも、大時計の針はずんずん進む。進入隊形は、大方の予想通りの穏やかな枠なり3対3。『安芸の闘将』西島が奇手を放つこともなかったし、幸哉が手拍子に舳先を翻すこともなかった。このレースの場合、それぞれの選択がもっとも勝機があると考えての枠なり3対3。

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 スタートの瞬間、再びスタンドは「ユキヤ」色に染まった。突出というレベルではないが、はっきりと舳先が覗いている。しかも、その舳先がさらに突き出る雰囲気を漂わせている。
「行けっ、ユキヤッ!」
 真っ先に叫んだのは、おそらく私だった(笑)。ほぼ同時に、隣の若者たちも叫び、わらわらと周辺の人々も「ユキヤ」を輪唱した。それに呼応するように、幸哉だけがどんどん出て行く。モノが違う。あっという間に隣の西島を抜き去った。ここからだ。ここからが、舟券の明暗を分かつ重要な岐路だ。
 そのまま太田までまくってくれ、幸哉。3-4、3-5で決まってくれ!
 さすがにこれは、心の中で叫んだ。隣の若者たちはワーとかギャーとかの叫び声になって、よく聞き取れない。

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 勢い的にはまんま絞めまくってくれそうな雰囲気だったが、1マークで幸哉が選んだ戦法は激辛のまくり差しだった。西島を飛び越えたスピードをそろり減速し、左に目を向け、ハゲタカが獲物を襲うように太田の内へと突き進む姿が、スローモーションのようにはっきりと私の網膜に映った。
 嗚呼……。
 なけなしの資金をすべて注ぎ込んだ私の舟券は、この瞬間に紙屑と化した。幸哉の戦術はまさに正着。やや強めの追い風が吹くこの水面では、盤上この一手とも言うべき最善手だった。
 負けました。
 心の中で投了を告げ、あとは颯爽と先頭をひた走る幸哉の背中を眺めていた。

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 勝って当たり前のV候補のひとりが、しっかり優勝した。
 これが素直な感想だ。私の中ではこの世代の「天才」は3人。先にも書いた、俊介・瓜生と幸哉だ。同意される方も少なくないだろう。で、とりわけ俊介に異常な愛情を注ぎ、だから瓜生を「永遠のライバル」と位置づけている私にとって、実は幸哉は「第三の男」的な存在だ。その幸哉が、“また”色物のビッグレースを先取りした。
 2000年1月、びわこ新鋭王座決定戦の優勝戦を、私は生涯忘れない。人気を二分した1号艇の俊介と2号艇の瓜生がともにフライングに散り、「恵まれ」でビッグタイトルを制したのが幸哉だった。歴代GI最高の返還金額とともに頂点に立った幸哉を、私は妬ましい気持ちで見つめていたものだ。

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 あれから21年、24歳の若者たちは45歳の壮年選手となって再び色物ビッグレースに集結した。そして、ドリーム戦の1号艇・俊介、2号艇・瓜生というバリバリのV候補を横目に、幸哉はあれよあれよと頂点に立ったわけだ。今度は、文句のつけようのない鮮やかなまくり差しで。もちろん、同じだけの歳月を重ねて初老の身となった今の私が、今日の幸哉に妬みなんぞを抱くわけもなし。優勝のみならず、来年の大村クラシックの権利を得たこと、気が早いながら賞金ランク7位にランクアップしたこと、などなどすべて心の底から祝福している。勝って当たり前の天才なのだから。そして、このまま50歳を過ぎても俊介、瓜生ともども艇界のトップ級であってほしい、とも。
 本当の本当の本当に史上最年少の優勝を絶賛しつつ、それでも心のどこかにイガイガみたいなものがあるとすれば、やっぱりこれなのだな。
 嗚呼、あれが最善手だと分かってるけど、アホな舟券を買った私の選手責任転覆なんだけど、イケイケの幸哉らしく豪快にまくってほしかったぞ~!!(号泣)
(photos/シギー中尾、text/畠山)