不安足と鬼足
9R
①毒島 誠(群馬)08
②太田和美(大阪)11
③中島孝平(福井)15
④瓜生正義(福岡)16
⑤山崎 郡(大阪)14
⑥中野次郎(東京)13
ナイターキング毒島がスタートをバチッと決めて、インからしっかり押しきった。1マークを回って2コース太田に肉薄されたようにも見えたが、そこから先の行き足はゴキゲン。節間を通じて「スリット近辺の行き足はしっかり上位級だけど、出足回り足はちと物足りないかも?」という印象は、準優でも変わらなかった。
リアルタイムで書いているため現時点で毒島のファイナル枠番は不明だが、明日も1号艇ならしっかり手前の足をてこ入れする必要がありそうだ。また、2、3号艇ならば上位レベルの行き足をさらに特化して、攻撃的な戦法を選ぶ手もあるだろう。戦前からの押しも押されぬ優勝候補。〆の大一番の直前に迷路から抜け出し、そのまま頂点まで突進しても驚くファンはひとりもいないだろう。
一方、秀逸な回り足をフル稼働して大逆転の2着をもぎ取ったのが、中島59号機だ。2番手の太田が2マークでやや膨れたところ、最内をくるり回って急接近。さらに2周1マークは内から内への窮屈な切り返しで旋回したらば、太田の差しをまったく寄せつけずにファイナル圏内の2番手を確保した。
太田のターンや判断がどうだったか、と見るファンもおられるだろうが、こと回り足に関しては中島が圧倒的に優勢な見え方だった。もちろん、明日のファイナルでもこの軽快なターン足は要注意。自力で仕掛けることはないにしても、なんらかの展開一本で複数の引き波を突破してバック突き抜けるだけのパンチ力を秘めている。
浪速のワンツー決着
10R 並び順
①秦 英悟(大阪)13
②上條暢嵩(大阪)17
⑥赤岩善生(愛知)18
⑤池田浩二(愛知)21
③石野貴之(大阪)25
④寺田 祥(山口)25
私も含めて穴党がときめいたのはスタートまでだったか。ピットアウトから赤岩がゴリッゴリに動いて最終隊形は【1265//34】。スロー4艇はやや凹凸ながら90m前後の起こしで、舳先を翻してダッシュに構えたのは石野×寺田のまくり侍なのだ。
そら③=④を買っていた私は12秒針が回る前から脳汁ダダ洩れ、「よっしゃ、でけたぁ!!!!」などと叫んで記者席でヒンシュクを買ったのだが……スリット隊形は↑御覧のとおり。ダッシュ2艇が半艇身ほど後手を踏み、その後の伸び足も届かずふたりの勝負手は空を切った。
外からの脅威が消えた1マーク、インの秦が凄まじいスピード旋回で圧逃~2コースの同支部・上條が赤岩のツケマイ強襲を抑えきって大阪ワンツーを決定づけた。今節の秦は運とリズムが出来過ぎの好成績という感じで、正味の足色はなかなか判定できないでいた。2日目まではなんとなく「中堅上位くらいかな」と値踏みしていたのだが、その後の安定感あるターン回り(今日もあれだけ豪快にぶん回してサイドがしっかり掛かっていた)などを見て「全部の足がちょいちょい強めのギリギリ上位級」と判断した次第だ。この鑑定は準優を終えた今も変わっていないのだが、胸を張って断言できない程度の「ギリギリ上位」ではある(苦笑)。
2着の上條は初日からしぶとい実戦足をフル稼働して準優好枠を勝ち取った。私の勝手な見立てでは「ストレートで優位を保ち、回り足は他よりちょい強めな程度、不足分をスピードで補っている」という伸び型判定だったのだが、黒須田が高く評価しているように出足系統もかなりしっかりしているのだな。今日の赤岩とのビッシリ競り合いでもそのあたりのレース足がキラリ光っていた。遅ればせながら、伸び寄りの中堅上位から「バランス型のAランク」に昇格したい。
思いの彼方へ
11R
①遠藤エミ(滋賀)07
②萩原秀人(福井)09
③丸野一樹(滋賀)09
④前田将太(福岡)12
⑤平本真之(愛知)12
⑥前本泰和(広島)18
「SG準優の逃げ逃げ逃げ3連発」はまったく珍しいことではないのだが、このレースだけは記者席がちょいと異様な空気になっていた。前本の前付けに他が抵抗して枠なりオールスローが固まると、「よし、この程度か」「これならそんな深くならないな」など安堵の声があちこちから漏れる。
インに入ったエミのエンジンが停止し、何度も何度もかけ直すと「ヤバッ、マジか?」「おいおいおい!」「早く、早く!」 今度はあちこちから不安な声。なんというか、運動会で我が子を見守る父親のような風情なのだが、ひとりの娘を何十人もの父親が応援しているような。まさに異様な空気だった。
もちろん、スタートでハナを切ると「よし」「行った」「いける」。1マークの手前では「うん?」「寄りすぎちゃう?」「どーだ?」。そして、エミがターンの出口で他艇を2艇身ほど突き放すと、言葉ではなく「はふぅぅぅぅぅ」みたいな溜め息とも吐息ともつかない声(息づかい)があっちこっちから漏れた。勝手に訳すなら「ほ、ほんとに逃げちゃった」ではなかろうか。
SGファイナル1号艇。
今節のこのポジションが毒島であっても秦であっても上條であっても、こんな「はふぅぅぅぅぅ」みたいな声にはならなかったはずだ。20年以上も前に寺田千恵だけが辿り着いた“異郷の地”に、遠藤エミがまさにいま踏み込んだ。
凄い。凄いことだが、実はまだ踏み込んだだけで何も終わっていない。寺田千恵はその異郷の地で猛者どもに叩ききられ、夢半ばで力尽きた。明日、明日こそが遠藤エミの本当の修羅場なのだ。相棒の68号機は、60年以上、女子の誰もが辿り着けなかった世界へ誘うだけの力を秘めている。私はそう確信している。遠藤エミというレーサーも、屈強な男相手に2戦連続でインから逃げきれる実力があることを誰もが知っている。
あとは、逃げるだけ。
簡単に書いたこの言葉が、どれほど難しく重く深くつらく、そして素晴らしいことなのか。明日のエミは、我々の思いの及ばない世界で孤独に戦う。思いは及ばずとも、その戦いは我々の網膜に焼きつき、歴史の生き証人としての役割を強いる。強いられる。今から20時間後に、我々はそれを見る。(photos/シギー中尾、text/畠山)