●９Ｒ
不穏というほどではないにせよ、どこか明るさを欠くレース後だった。勝った毒島誠にしても、１着で優出したという歓喜はうかがえない。もう何度も経験していて、特に心弾むことはもうなかったとしても、それにしても表情は勝者のそれではないのである。ヘルメットをとった直後、ほんの一瞬だが、眉間にしわが寄った。期待したほどの仕上がりではなかったか、と書けば収まりはいいわけだが、とにかく準優の勝者らしさはほぼ見えなかったということになる。
２番手を走りながら逆転された太田和美は、はっきりと憮然たる顔つきだった。大袈裟に言えば、憤怒。準優の２着と３着は、たった１つの差ながらあまりに隔たりは大きい。そのことを改めてまざまざと教えてくれる、太田のレース後であった。もちろん、仕上がりなど、逆転されたこと以外にも悔恨はあるかもしれないが。
逆転２着の中島孝平は、そもそもがレース後に感情の動き、揺れなどをあまり見せるタイプではなく、だから優出の歓喜は伝わってきにくい。また、控室へと消えていくまでヘルメットをとらなかったからなおさらだ。まあ、これが中島らしさとも言えるわけであって、感情が爆発した瞬間を見られるとしたら、明日先頭に突き抜けたときだろう。
●10Ｒ
９Ｒのレース後とはムードがまるで違った。まずは、ＳＧ初優出を決めた上條暢嵩だ。素直に喜びを表に出し、もともと柔和な顔がさらにやわらかく微笑みが浮かぶ。20代のうちにＳＧ優出を！ そう誓っていた上條にとって、それがかなった瞬間なのだから、歓喜がにじみ出て当たり前だ。
スタ展オールスローから、さらにぐりっと動いて３コースを奪った赤岩善生は、３着に敗れたものの、どこかサバサバした様子で、毒島誠との会話では（珍しい絡み！）目を細める場面もあった。やるべきことをやり抜いた、その満足感はあっただろうか。優出は逃したものの、先々の見通しが明るくなったような、そんな様子なのであった。
勝った秦英悟は、どちらかといえば淡々。ただ安堵のようなものは感じられて、深い起こしながら逃げ切ったことへの満足感もあっただろう。これで３度めのＳＧ優出だ。大阪支部では決して派手な活躍は見せてきたわけではないけど、この男、強い。
●11Ｒ
一言でいえば、大祝祭空間だった！ 水面際では、遠藤エミが先マイし先頭に立った瞬間に、平高奈菜が大きく拍手した。その後ろのほうでは、守屋美穂が両手を合わせて祈るように水面を見つめている。遠藤が先頭ゴールした瞬間、やはり拍手！ そして平高とともに、猛ダッシュでリフトへと向かっている。
遠藤が凱旋すると、平高と守屋がバンザイ！ ピットに上がったあとには次々と、選手仲間が祝福を送っている。明日戦うことになる秦英悟、石野貴之、優出をのがして目は笑っていなかったけれども萩原秀人、同じく平本真之、その他もろもろ……。やはり遠藤が果たした快挙に、誰もが明るい心持になっていたのだ。萩原と平本にしたって、もし優出を決めていたら笑顔を向けていたに違いない。
そう、思い切り笑顔で遠藤とハイタッチしたのが、２着で優出した前田将太だ。102期ワンツーという最高の結果となった準優で、同期生の快挙をおおいに称えた前田である。もちろん狙うは、明日12Ｒでのワンツー決着。本音はもちろん自分のＳＧ初優勝だろうが……。
女子３人目のＳＧファイナリストが誕生した令和４年３月20日。ひとまず、今日のところはこれ以上のことは書かないでおこう。まだ何も終わってはいない。決まってはいない。正直、俺がすでに緊張してるよ。だから、今日はここまで。明日、ボートレース界にとって最高の歴史が生まれることを祈るのみだ。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
