BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦ピット/入れ替わった絶叫

 12R優勝戦のスタート展示が終わって10分ほどが過ぎると、午前11時と同じほど児島ピットは閑散かつ静寂に包まれた。ファイナリストたちは思い思いの休憩に入り、ピットに残ったのは最後のエンジン吊りを待つ若手のレーサーが5人くらいか。みんな、自分のエンジンは格納し終わっているから、誰もが手持無沙汰状態だ。

「すっごいカメラですねぇぇ♪」
 興味津々の声で池上カメラマンに寄り添ったのは、節間を通じてとにかく元気いっぱいに動き回っていた来田衣織。
「良かったら、撮ってくれませんか?」
 屈託のない笑顔でポーズを作る衣織ちゃん。超リラックスムードの中、ついでと思って「もし紅組が優勝して10万円もらったら、なにに使いますか?」と尋ねると、うーーーんと唸ってから「けっこうトレーニングって費用がかかるんですよ、だから、貯金します(笑)」

 少し遅れて「丸トレ・メイト」の勝浦真帆(今節の裏方仕事MVPかも)が合流すると、衣織は堤防の上でアクロバティックなトレーニングを開始した。
「ねえ、危ないよぉ、落ちちゃうよぉ」と本気でお転婆な後輩の心配をする真帆ちゃんが、実になんともいじらしい。

 ふたりの元を離れると、整備室の前で今度は白組の谷口知優クンがそろり近づいてきた。
「すみません、最後まで足が弱くて、仕上げきれませんでした」
 確かに、初日から今日まで中堅の域にもほど遠いパワーだったが、もう悔やんでもはじまらない。
「もう終わったことは忘れて、あとは白組が優勝してボーナス10万円を祈るだけだねぇ」
「はい、本当にそう、マジで祈ります!」
 まだまだ勝ち星に恵まれない122期にとって、もちろん臨時収入の10万円は馬鹿にならない金額だろう。
「もし優勝したら、10万円、何に使う?」
 これはもう、質問する前からほぼ答えは読めていた。
「はい、『清花園』(四国中央市の焼肉屋さん、3日目のピット記事参照)で腹いっぱい美味しい肉を食べたいです。やっぱりあの店の肉がいちばん美味しいんで!」
「だよね~」
 などと話していたらば、ついに最終決戦12Rのファンファーレがピット全体にも鳴り響いた。勢い、私は谷口クンや衣織ちゃんら若手が集まった整備室を外から観察することになった。ざっと見、男子が5人、女子が4人程度の小世帯。3分後、私のこのポイント選択が大きな間違いだったことに気づくのだが、慣れない身の上、まだそれには気づかない。

 整備室のモニターを食い入るように見つめる若者たちは、1マークの手前で「おおっ!」と叫び声を上げた。6コースのミスター紅白戦・吉川貴仁が伸びなり強引に絞めまくって同期のイン・新開航に襲い掛かる。確かに「おおっ」という展開ではあったが、背中を向けている若者たちの表情はまったく分からず、しかも声などの物音はガラスに遮断されてほとんど届かない。
 まあ、中には入れないんだから仕方がないか、と私もガラス越しのモニターを見ていたらば、あらぬ方向から歓声と奇声が聞こえてきた。私とほぼ対角線、はるか向こうのロッカー室から何人もの選手たちが勢いよく飛び出し、寺田千恵や前原哉などの女子選手だけが両手を高々と振り上げて「イエーーーイ」「やったーーっ!」「勝った~~!」などと叫びながら進軍している。

 特に大喜びしているのは、若々しいTシャツを素敵に着こなしている堀之内紀代子で、「キャーーー!!!!」とピンク色の叫び声を上げながら飛び跳ねるわ、両手をブンブン振り回すわ、今度は何度も突き上げるわ、もう、見ているコッチまで嬉しくなるほどのはしゃぎっぷりだ。
 紅組チームのガッツポーズと歓声は、昇降機の手前に来ても止まらない。3周の激闘を終えた選手たちの姿が近づくと、15人ほどの女子選手だけが拍手喝采、万歳三唱、ぴょんぴょんジャンプと喜びを爆発させている。
 逆に向かって左半分に陣取った男子レーサーたちは、一様に静かな風情で同志の帰りを待っている。別にガックリ落ち込んでいるというほどではないけれど、なんというか、実につまらなそうな背中が横一列に並んでいる感じ。
 嗚呼、この残酷なまでの明と暗を、チャーリー池上先生に撮ってもらいたい!!
 私は心の底から思ったものだが、池上カメラマンは2マーク付近から実戦を撮影していてここにはいない。それが残念でならなかったが、同時に私の選択ミスにも気づいたわけだ。はるか遠く、紅白チームの重鎮たちが一堂に会したであろうロッカールームに張り付いていれば、どんだけリアルな反応を目撃することができたか。レースのどのあたりから、レディース軍団の“雄叫び”がはじまったのか。1週間に渡ってにわかピット班を担当したのだから、最後の最後、この大会の醍醐味である「団体戦の喜怒哀楽」をもっともっと選手たちの身近で見聞したかった。

 最後のエンジン吊りの間も、レディース軍団の歓喜エナジーは半端なく、淡々と仕事をこなすルーキーズとはまるで正反対だった。ソッチのほうばかりに気を取られていた私は、ファイナリストの表情をほとんど見落としてしまったのだが、大会の性質上許していただきたい。

 いくつか気づいた点を挙げると、2着ながら紅組優勝に貢献した田口節子がニッコニコの笑顔だったこと。6コースからあわやの強襲を決めそこなったミスター紅白戦・吉川貴仁は、実にサバサバとした表情で帰り支度に走り去ったこと。それくらいです(苦笑)。

 ピットの喧騒(byレディース)が収束するのを待って、そそくさと表彰式に向かう。イン戦21連勝というとてつもない強さで個人優勝を決めた新開航は、それでも悔しそうな表情で〆のセリフを言い放った。
「個人の優勝はできましたが、団体戦で負けたのが凄く悔しいので、次回はルーキーが勝てるよう切磋琢磨して頑張ります!」
 おお、なんと団体戦のスピリットが浸透したことよ。感心しつつ、私はこっそり心の中でツッコミを入れていた。「118期の新開クン、残念ながら来年の芦屋大会には出られないけどね」と(笑)。

 そしてそして、団体戦優勝の表彰を受けたのは、岡山支部のスーパーウーマン寺田千恵!! この大会に5回も参加しているテラッチは、さすがに紅白戦の酸いも甘いも知り尽くしていた。その巧みなコメントをダイジェストでまとめちゃおう。
「スタートしたときは(敵の吉川が絞めまくって)『あああっ!』って悲鳴が出ちゃいました。1周1マークでは男子の方が『わーーーっ』って叫んだんですよ。でも2マークを回ってからは女子が『キャーーーーッ!!』(笑)。女子の絶叫が競技本部内に響き渡りました、ウフフフフ」

 さすがテラッチ、勝利の瞬間を生々しく描写してくれたものだが、その描写があまりにリアルだったからこそ、私の無念もまた募るばかりなのであった。
 嗚呼、男女の絶叫が入れ替わる瞬間を、この目と耳でリアルに受け止めたかったよーーーん>< (photos/チャーリー池上、text/畠山)