BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――グラチャンスマイル

 8Rを3着で終えた松井繁は、ピットにあがってもモーターを外さなかった。代わりにというわけではないが、3番のプレート「試」に換える。今日の仕事はまだ終わらない。この後、水面に出る腹積もりのようだった。
 9R発売中に試運転の準備を整え、ボートを下ろしたのは10R発売中。試運転が始まった。といっても、基本的に唐津は10R発売中までで試運転は打ち切られる。乗れる時間はそれほど長くはない。それでも、水面に出なければいられない、違和感が松井にはあったのだろう。松井には時折、これがある。
 ところが、松井は10Rの試運転タイムが終わって赤灯がついても、ボートを陸に上げなかった。どうやら競技委員長に申し出て許可を得れば、11R発売中も走れるようなのだ。こうと決めたら妥協しない。それが王者のこだわりと言える。

 それもあってかもう一人、篠崎仁志もボートを上げなかった。篠崎は1R1回乗りで、しかし不本意な結果となってしまっている。今日はその後、ほぼ丸一日、水面に出ていたのだ。11R発売中、篠崎と松井は時間が許す限り、水面を駆けている。先にあがったのは松井。篠崎はさらにもう1周走って、試運転を切り上げた。偶然ではあるが、今日最後の最後まで水面に出ていたのは、評判機をゲットしていた2人ということになる。下馬評が高いモーターだったからこそ、実戦での感触のズレを解消するために粘った、ということも言えるだろうか。

 9R、1号艇で大敗した大上卓人は、レース後すぐに本体をバラした。前検の感触も良くはなかったようだが、初日に1号艇で大きく取りこぼしたことは、大きな整備に取り掛かることを決意させるものだっただろう。とはいえ、整備できる時間はそれほど残されていないのである。それでも大上は今日は手じまいにする気にはなれなかったのだろう。しかも前夜版によれば、明日は1R出走。明日だって整備する時間は多くはないのだ。ということで、今日は時間ギリギリまで必死に整備に励む。明日の1Rまでに少しは上向かせることができるだろうか。

 その9R、大上はとにかく深刻な表情であがってきているのだが、対照的だったのは2コースからまくった太田和美である。大上がスタートで後手を踏んだこともあって、破顔一笑というわけではなかったが、微笑を浮かべている様子からはテンションが上がっていることがうかがえた。勝利者インタビューの後、太田とすれ違ったのだが、太田はニッコリ笑って会釈をしてくれた。怪物くんスマイル! レース前などは戦闘モードに入っているから、時に怖いくらいに集中している様子が見られる。そうしたときはすれ違って会釈しても、軽く返してくれる程度。こちらとしては、むしろ太田の集中を途切れさせてしまったのではないかとむしろ気がかりになったりするわけである。そんな様子とは対照的な太田の笑顔には何とも癒されました。

 徳増秀樹もまた同じタイプで、レース前はすれ違って挨拶をしても、目も合わせずにゆっくりとかるくうなずく程度。一方、今日は1便で帰るのだろうか、着替えを終えていた徳増とすれ違ったら、会釈をしながら目元が完全に微笑んでいたのであった。普段の徳増は丁寧で礼儀正しく、また気さくである。いちど、新幹線で出会ったことがあったのだが、ニコニコしながら近寄ってきた徳増は、ハイどうぞ、と徳増ステッカーを10枚ほども差し出してきたのだった。どうやら先にこちらに気づいていたようで、わざわざステッカーをプレゼントするために歩み寄ってきたというわけなのだった。それだけに、レース前の戦闘モードに入った徳増は、やはり濃く、そしてカッコいいのである。

 10Rを2コースまくりで勝った石野貴之もまた、ニコニコのレース後でした。この人もレース前は近寄りがたいオーラさえ発していて、とことん凛々しい。ところが笑うと目がなくなるくらい細くなってクニャリと曲がる。今日のまくり快勝で、そのスマイルが見られたというわけである。我々も舟券で勝って、目をクニャクニャにして笑いましょう!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)