●10R
高倉和士、惜しいっ! いや惜しすぎる。差してバックではたしかに2番手。SG初出場初優出がたしかに見えていた。しかし、関浩哉と並走状態で、功を焦ったか2マークは握りすぎてのオーバーターン。大きく流れて、優出切符は遠ざかった。最終的には5着まで下がってしまったのだから、これは悔しい。
そう、本当に悔しがっていた! 天を仰ぎ、うなだれ、身をよじり、カウルを拳で3度叩く。また肩を落として、うなだれて、さらに天を仰ぎ、泣き出しそうな表情になった。池永太が哀しそうな笑顔でそれを見つめる。高倉にとって、もしかしたら選手生活で最も悔しい瞬間だったかもしれない。これはもう、バネにしてまたSGにやって来るしかないだろう。
競り勝った関浩哉は、スッキリした表情になっていた。先月ヤングダービーを制して、今度はヤングがつかない“本物の”ダービーで優出。この秋は関にとって大きなステップアップとなった。達成感も大きいだろう。それが、自然と関の表情を柔らかくする。高倉と並んでレースを振り返り合っているときの、その表情の明暗がまた、この激戦ぶりを物語っていた。
勝ったのは桐生順平! 危なげないイン逃げだったが、桐生の安堵ぶりといったら。どうやら、スタートでやや後手を踏んだような隊形となったことで、桐生としては決して楽なイン逃げだったわけではないようだ。コンマ15だから過不足のないタイミングなのだが、桐生自身はもう少し攻めたかったということ。それが、命からがら、とでも表現したくなるような安堵の表情につながったわけだ。そんな桐生に、対戦相手たちも祝福を送る。桐生がどんな思いで臨んでいるか、誰もが理解しているからこそ、敗れてしまったとはいえ、その勝者を称える心持ちになるのだろう。そんな祝福を桐生はやはり、ギリギリ勝てたかのような顔つきで受けていた。桐生にとって、この準優1号艇は我々が想像する以上に重要な戦いだったということだろう。
●11R
松井繁が3カド! スタート展示から見せていた腹を据えた作戦。スリットから出ていくほどではなかったけれども、3コースはまくりを放って、勝負手を繰り出している。しかし、毒島誠がやや流れた、その航跡の影響で大きく流れ万事休す。それでも2マークで2番手争いに取りつくまで追い上げているのだが、番手争いに敗れ4着。見せ場は作ったものの、優出切符は逃すこととなってしまった。
それでもレース後の松井にはサバサバとした様子がうかがえた。足取りも決して重くはなく、やるだけのことはやった、そんな雰囲気にも見えた。レースぶりもレース後も王者の風格は損なわれてはいなかった。それだけは間違いない。
というわけで、毒島誠は会見にあらわれて「反省しています」と口にしている。準優のいいレースを崩してしまった、そういうことだ。毒島自身も想定していなかったほど、調整がズレていたそうだ。それが初動で跳ねて流れたことにつながってしまった。リプレイを見ると、佐藤翼も影響を受けているし、白井英治もそのあおりを食った。宮地元輝もそこで生じた思いもよらぬ引き波に足を取られている。レース後、対戦相手に「すみません」と言って回っているが、これはどの勝者も相手に口にすることだとはいえ、今回ばかりは文字通りの意味も多分に含まれていたのかもしれない。
だからこそ、明日は調整をさらに万全にして、優勝戦に臨むはずだ。勝てば戸田SG2連続優勝。しかも同一年のうちに。その偉業を成し遂げるだけの雰囲気は充分にある。
2番手争いを競り勝ったのは佐藤翼だ。地元SG優出! 桐生とともに臨む、戸田SGの優勝戦。佐藤にとっては大きな大きな一戦となることだろう。佐藤には、少しばかりの安堵感も見えている。不利を受け、2マークでは松井に迫られ、2周1マークも松井に先マイされるなど、決して楽に獲った2着ではない。それだけに、ホッとした思いが生じるのは当然だ。それにしても、戸田ファンには望むべき結果の準優、かもしれませんね。明日の戸田ボートは熱狂必至!
●12R
ここも2番手争いはアツかった。平本真之が先行し、馬場貴也が追い、さらには西山貴浩も加わる。平本が有利な位置で進めていたが、2周1マーク、西山が渾身の先マイを放ったところ差して交わしている間に、馬場が全速で外を交わしていった。平本にとっては、痛恨の3番手後退だった。
感情を隠さない男、である。ヘルメットの下にフェイスマスクをかぶっていて、目と鼻しかのぞいていなかったのだが、それでもわかるほど露骨に顔をしかめた。そして「ガァァァッ!!!」と咆哮。悔恨を爆発させまくっていたのだ。この痛恨は何度味わっても慣れるものではない。そして、それを全身であらわせる男だからこそ、平本は強いのだと思う。
西山はピット離れ仕様にしていたようだ。しかし5号艇の馬場を出し抜くのが精いっぱい。それでも5コースから攻め、2番手争いを演じたが、及ばなかった。ピット離れ仕様で回転を上げていたことが、逆にマイ過ぎになってしまって、競りに影響があったようだ。ピット離れ仕様にしたことに悔いはない。しかし結果に悔いは残る。西山はピットに戻ると、リフトの上で立ち尽くし、対岸のビジョンを見つめ続けた。そこでまたマイ過ぎを確認したということだろうが、6号艇でも一発カマすつもり満々だったわけだ。だから余計に悔しい。
おそらく想定外だった6コース回りになった馬場は、しかし2着を獲り切った。レース後は淡々とした様子で、仲間から優出の祝福を受けても、穏やかに微笑んで、会心をあまり表にはあらわしていなかった。優勝戦は6号艇。しかし結果的に今日、予行演習を済ませたとも言えるわけで、おおいに不気味である。
そうした2番手争いを尻目に、峰竜太は逃げ切った。1マークで茅原悠紀と山田康二、2コースと3コースの接触があったから、結果一人旅となっている。笑顔で戻ってきた峰は、すぐさま地上波中継のインタビューに呼ばれ、終わると公開ウィナーインタビューに呼ばれ、ととにかく忙しい。それでも笑顔は絶えなかった。そして大峯豊に「早く済ませて来いよ! もう帰るけん!」とからかわれてさらに笑顔。ビッグミネにからかわれるプレーンミネ? ともかく、気分上々でダービー連覇に王手をかけたという次第である。今日は高倉だったり平本だったり西山だったり、悔恨にくれる姿、あるいは勝って神妙な毒島の様子がけっこう胸に響いてもいたしのだが、峰の笑顔になんだか癒されました。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)