BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――カッコいい!

 いやはや、上平真二の足が凄かった。バックでは勝者が「驚いた」というくらい、アッという間に並びかけたし、2周目ホームでは1艇身差あったものが旋回するまでに完全に外並走にまで持ち込んでいる。
「うぉぉぉぉっ! すっげぇぇぇぇ!」
 整備室のモニターでレースを見ていた永井彪也と大上卓人が思わず声をあげる。大上としては、先輩があと一歩で優勝まで届きそうなのだから、なおテンションが上がる。

 しかし、池田浩二はさすがの手練れであった。2マーク、しっかり先に回って差をつけると、追いすがる上平の圧を感じながらもミスなくターンマークを回っていく。
「パチパチパチ!」
 3周1マークを回ったところで、装着場から拍手が聞こえてきた。磯部誠だ。敬愛する先輩が、見事に逃げ切った(決まり手は抜き)。それを見て、1カ月前、そして今日の11Rで悔しい思いをした磯部としては、「俺も!」と意を強くしたことだろう。
 池田浩二、10回目のSG制覇だ!

 いつも淡々としたレース後の上平は、さすがに微妙な表情となっていた。見えたはずのSG戴冠は、あと一歩のところで手からすり抜けていった。足は間違いなく池田を上回っていたが、ボートレースはそれだけで勝負を決っすることをしない。おそらく最も悔しい思いをしたのは、上平のはずだ。

 事実、狙いすましたまくり差しが上平と接触するようなかたちで後退した山口剛は、「上平さんとは足の差がありすぎましたよ!」と労わる瓜生正義に笑顔で返している。負けたのはそりゃあ悔しいが、如何ともしがたいパワー差を見せつけられれば、むしろ諦めがつくというものだろう。

 前付けでレースのカギを握った赤岩善生も、わりとサバサバしたような風情だった。やることはやった――それは前検で劣勢と感じたモーターをしっかり上積みしてきたことも含め――、そんな思いはあったのではないか。そう感じさせられる、レース後の赤岩だったのだ。

 中野次郎、柳沢一にしても、表情はわりと穏やかに見えた。笑みこそほとんど見られなかったものの、粛々とモーターを返納し、汗を拭いながら淡々と控室へと戻っている。
 それだけに、まさに惜敗の上平のやや暗鬱としたようなレース後が強く印象に残る。賞金ランク9位に浮上と今年好調の上平が、これを経て、今後のビッグ戦線で何を見せてくれるのか、楽しみになってきた。

 磯部、平本真之、岩瀬裕亮に出迎えられた池田は、力強い表情で磯部、平本とハイタッチ。それも、まるでバレーボールのアタックのように、強烈に手と手を合わせた。JLCのインタビューを受け、プレス撮影が始まる。カメラマンのリクエストに長い時間応え続ける池田の表情は、あまりにも瑞々しく、また凛々しかった。池田のこんな表情を見たのはいつ以来だろう。SG制覇が13年グランプリ以来だから、それ以来? いや、あの黄金のヘルメットをかぶった池田以上に、今日の池田は強いオーラを放っていたように思う。戴冠のブランクがそうさせたのか。あるいは、その間に池田のなかに芽生えたものがあったのか。会見で「スピードだったら若い子たちのほうが凄いし、うまさもある」と池田は語ったが、そういう後輩のライバルたちの台頭を受け止めながら、池田浩二はどうあるべきかと考え、そのなかで得たものもあるのかもしれない。とにかく、池田浩二が最高にカッコ良かった!

 ウィニングランから戻ってきた池田は、選手仲間に愛される池田そのものであった。
「やったぜーーーっ!」
 対岸にある鏡山の頂上にまで届くかのような大声で快哉を叫ぶと、拍手よりも先に笑いが起きている。ようするに、仲間のもとに戻ってきて、おどけて見せたということだろう。そして、次に拍手が起こる。ちょうどモーター返納を終えた選手たちが着替えを始めたところで、彼らも「まいりました」とばかりに笑顔で池田を祝福。すると池田は中野を恫喝(笑)。今節はたびたび仲良さげに絡む二人を見かけており、それこそが阿吽の呼吸だったということだろう。あ、赤岩はやや神妙な表情で声をかけていたっけ。それを受けて池田も神妙に返したあたりは、愛知支部の同世代同士のつながりということだろう。

 とにかく、ピットに戻ってからの池田はとことん笑顔であり、また周囲も圧倒的に笑顔を送っていたのであった。それはなかなかに幸せな光景であった。8年半ぶりにSGを獲った池田は、きっとまた近いうちにこんなシーンを作り出してみせるのだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)