BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――しっかりV!

 深紅の優勝旗は、静岡県に! 深谷知博が人気に応える逃げ切りで、第4回全国ボートレース甲子園を制した。
 前半の記事に記したように、今日は早くからボートを下ろし、しっかりと準備をして優勝戦に臨んだ。それでも仕上がりが甘かったと緊急会見で語ってはいたが、一節間で積み上げた超抜パワーは揺るぎないものだった。これも本人が会見で語っていたことだが、1マークはターンマークを漏らす旋回になっている。外から攻めようとした新田雄史、あるいは先攻め仕様とした馬場貴也が気になっただろうか。しかし、2コースから差した白井英治を寄せ付けない、圧倒的な勝利。前検から手応えがあったモーターの、パワーをしっかり引き出した深谷の、紛れもない自力勝ちである。

 GⅡとはいえ、SG優勝戦並みのメンバーである。白井の前付けも当初から想定された。やはりそれなりにプレッシャーはあったはずだ。展示を終え、工具などを整備室前に置き、その後に出走待機室に向かったのは、6人のなかで深谷が最も早かった。その間に、掲示されたスタート展示のスリット写真を確認し、モニターに映し出される気象条件に見入り、そうしたレース直前の準備もしっかり行なった。緊張感の中でも我を見失うことなく、為すべきことを漏らさずに行なった。どう考えても、これは完勝なのだ。

 たった今、三島敬一郎からの連絡で知ったのだが、テレビの勝利者インタビューでは泣いてたって!? それはまったくもって見逃していた。微笑みを浮かべながらウィニングランから戻ってきたのを遠目で確認して、敗者のほうに目を向けてしまったのだ。しかも会見ではもう、そんな素振りは見えなかった(目も赤くなかった)。すでにSGも優勝しているし。冷静なレース後と見えたが、心は激していたのか! やはり自分を追い込んでいた部分もあったのかもしれない。

 会見中、菊地孝平がやって来て、スターターロープとプラグを深谷のポケットに押し込みながら、「よく頑張りました」と言った。そのとき、深谷の目がすーっと細くなって、心からの笑みを浮かべた。まさに心が軽くなった、そんな風情の笑みだった。

 敗者たちのなかでやはり目を奪われたのは白井英治だ。スタート展示では5コースまでしか入れず、本番はさらに果敢に動いて2コースまで潜り込んだ。白井を入れた4人は、これを想定して展示は入れなかったということもあるか(佐藤翼は結局カドに引いている)。ともかく、白井は深い起こしも覚悟で2コースまで入った。宣言通り、セット交換も行なった。プロペラもきっちり調整した。そしてレースでは2コースから冷静に差した。深谷には及ばなかったが、準V。機力に苦戦しながらここまでの成績を残したのだ。地元代表としては責任は果たしたと僕は思った。
 ところが本人はまるで納得していないようだった。ピットに上がった直後。着替えを終えてモーター返納に向かうとき。返納作業の間。返納を終えて引き上げていく際。深刻な表情は一向に変わる様子がなかった。6号艇で2着だから十分か。そんなことを、微塵も思っていないのは明らかだった。結局ノルマは、優勝だったということだ。ならば、あの沈痛な表情もうなずける。

 それでも、僕は白井にナイスファイトと言いたい。いや、白井だけではない。馬場貴也も佐藤翼も新田雄史も瓜生正義も、SG優勝戦と変わらない戦いを甲子園の舞台に立ち上らせた。甲子園の勝者にはなれなかったがナイスファイトである。熱闘甲子園をありがとう。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)