BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――不思議な明るさ

 10Rは3着同着。長い写真判定となり、その対象選手=菊地孝平と今垣光太郎がピットに戻ってきたころにようやく、対岸にはその旨が映し出された。
「どーちゃーく」
 という声がわずかに聞こえてきたが(たぶん西山貴浩)、選手たちは案外、そのことに対して盛り上がったりはしなかった。そんなもんなのだろうか。僕はこっそり「おおおっ!」とか呟いていたんだけど。

 控室への戻り際、今垣が菊地を背後から追いかけて、声をかけている。「菊地くん、当たった?」というのはもちろん舟券が当たったかどうか尋ねたわけではなく、ボートの接触があったかどうかの確認。菊地の答えは判然としなかったが、今垣は軽く頭を下げていた。ただ、まさに3着を分け合った二人、空気感には不思議な明るさがあった。お互いに長い選手生活のなか、そうそうあることではないので、自然と頬が緩むところがあったか。

 9Rを逃げ切った森高一真は、勝ったというのにコワモテのしかめっ面でピットにあがってきている。今朝、「今日がひとつめの勝負や!」と気合の入った言葉を僕に投げてきており、それを実らせた満足感がなぜかしかめっ面になるという。ところが、出迎えた平山智加や同期の田村隆信はニッコニコで笑っており、森高が何か口走ったらしい内容が笑いを押さえられないものだったということか。なんだかんだで、この男の周りには笑顔が溢れているんだよなあ。ここにもまた、不思議な明るさがあった。

 今日も西山貴浩が遅くまで試運転だ。セット交換で臨んだ5R。昨日の試運転はまさにその整備を終えた後の試運転だった。しかし、結果は4着。整備が実ったとは言えず、今日もレース後に整備をしていたとも耳にしている。明日は勝負駆け、懸命にパワーアップを模索して、準優へと辿り着こうとしている。その努力の様は、実に涙ぐましいとも言えるわけである。だというのに、他の選手と絡めば大声を張り上げておどけて見せて、笑いを生んでいる。ほんと、この男の周りはいつも不思議な明るさ……って、ぜんぜん不思議じゃないか、西山貴浩に関しては。

 さて、整備といえば、8R後に整備室に入った石野貴之が本体を割っていた。石野の相棒60号機は評判機のひとつで、レースでの動きも悪くないと見える。8Rも桐生順平との2着争いとなって、競り勝っているのだ。しかし、まだ満足していないのか。それとも気がかりな点が見つかったか。その内容は、時に死角に入ったりして詳細にはわからなかったが、洗浄室に入っていったりもしたので、点検や部品の洗浄などが主かもしれない。いずれにしても、石野が快速機をさらにパワーアップさせてくる可能性はあると考えていいだろう。

 その石野に競り負けてしまった桐生順平も調整が続く。整備室を出入りしている様子を見かけているが、整備をしているかどうかははっきりと確認できていない。なにしろ、整備室内にもプロペラ調整スペースがあり、しかも装着場からは死角に入っているので、その様子が確定できないのだ。ただ、いまひとつ突き抜け切れない現状に、やや切羽詰まったようなものも感じられ、明日の勝負駆けに向けてさらに調整のピッチは上がっていくことだろう。明日は1号艇も回ってくるだけに、がっちりと調整を合わせたいところだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)