10Rが終わって、下位から自力で準優ボーダー圏に浮上する選手は不在となった。その10R、松田祐季は1着でボーダーを超えそうだったが、6号艇はさすがに遠く、3番手争いまで。競り合った深谷知博と笑顔で挨拶を交わし合っていたが、4着に敗れたとあって、やや複雑な表情も見せている。
その深谷は、レース前までは20位だったが、これで18位に浮上。大きな大きな3着となっていたのだ。松田に向けた笑顔は、健闘を称え合うという性質のもので、勝負駆けをクリアしたのだという喜びはあまり見えず。というのも、レース前の18位ボーダーは5・33で、深谷がこれをクリアするためには2着が必要だったのだ。準優圏内にいた柳沢一がこのレースで6着大敗を喫し、20位までランクダウンしたことで、深谷が18位に浮上したわけで、レース直後の段階でそれを把握しているようには見えなかったというわけだ。先述の通り、12Rには下位から逆転してくる選手はいないので、この時点で予選突破決定の深谷だったのである。
10Rを勝ったのは石野貴之で、この勝利により得点率2位に浮上。ただし、7・00に4人が並んでいるという状況で、上位着順差による2位だから、これも把握していたかどうかは微妙なところだった。ただ、1号艇の瓜生正義に対して明らかな足の差を見せつける差し切り快勝で、ヘルメットの奥の目がなくなるかというほどに細くなっていた。勝利も、モーターの気配も、ともに石野の気分を上げていたという次第である。
で、先に回って、出口では石野に舳先を掛けられたという程度だったものが、2マークまでに抜き去られた瓜生は、石野に「インチキしてないか?」と愚痴った(笑)。あれだけあっと言う間に追いつかれ、抜かれ、では、そんな憎まれ口も叩きたくなろうというものだ。なにしろ、原田幸哉には「このエンジンでよく頑張ったね」と労いなのか称賛なのか、あるいはエース機で準優に行けなかった僻みなのか(笑)、微妙な激励をされていたのである。ともあれ、瓜生は敗れたものの、予選突破には成功。賞金ランク15位という微妙な立ち位置を思えば、準優に進めたことはグランプリ行きに限りなく近づいたことと同義である。
12Rはさまざまな絡みがあったレースだ。まず、桐生順平か篠崎仁志が5着以下に大敗すれば、レース前の時点で19位だった遠藤エミが18位に浮上することになっていた。遠藤は整備室で細川裕子と落合直子に挟まれるかたちでモニター観戦。しかし、桐生が逃げ、篠崎が2番手を走ったことで、遠藤の予選落ちが決定。グランプリではトライアル2ndからの登場を切望していた遠藤だが、トライアル1stを戦うことになった。複雑な思いもあるだろうが、レース後は淡々とエンジン吊り等の作業を行なっている。
外枠の松井繁と関浩哉には、予選トップ通過の可能性があった。⑥-⑤という出目以外で松井が2着となれば、逆転トップ浮上。1マークではまくり差しで攻め入ったが、及ばずに6着大敗となってしまっている。こうしたとき、松井は決して感情を表にあらわすわけではないが、しかしかえって淡々とした振る舞いに屈辱に耐える様子がはっきりと伝わってくる。先着した篠崎や羽野直也も、思わず直立不動となって「すみませんでした」と頭を下げるのだった。軽く右手をあげて応える姿が、また王者の痛恨を感じさせる。
関は差したものの、結局4着まで。関にも複雑な思いはあるだろうが、やはりレース後は淡々とした振る舞いであった。準優は3号艇。悪い枠ではない。ここをクリアして、初のグランプリを引き寄せたいところだろう。
この結果を受けて、片岡雅裕の準優1号艇が決定。たまたま近くでモニター観戦をしていたので、ふっと表情をうかがってみたが、ひとつも顔色を変えることなく、エンジン吊りへと向かうのだった。まあ、マーくんがド派手に喜ぶシーンのほうが想像はつかない、そんな人なのだけれども。
女子のほうは、高田ひかるが快調。11Rはスタートが一息で、まくることはできなかったが、まくり差しで2番手へ。中村桃佳と競ったが、2周1マークでケリをつけている。1マークを見ると、伸びだけでなく旋回系統も悪くなさそう。4日目終了時点では、2位の細川裕子に差をつける得点率1位となっているが、優勝戦1号艇でも問題なさそうだ。レース後は、競った中村とと楽しそうにリプレイを見ながらレースを振り返る。口調も弾んでおり、実にテンションが高いのであった。メンタルも好仕上がりと見たぞ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)