BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――大激戦勝負駆け

 ボーダー争いは大混戦! 10R終了時点では5・60に4人が並び、その最上位が松井繁で18位という状況。この18位をラインとして、圏内から落ち、圏外から浮上が連発した終盤戦である。
 浮上したのは、まず9R2着とした西山貴浩。レース前は22位だったものが、一気に12位にまでランクを上げて、西山は一安心の表情である。もっとも、ボーダーを超えたからには勝負は明日なのだから、安心しておしまいでいいわけがない。その後の西山は整備室で懇切丁寧にモーターを点検し、明日への備えをぬかりなく行なっていた。

 10Rでは、丸野一樹が大激戦を制して逆転2着。瓜生正義、羽野直也との2番手争いでは終始不利なポジションだったが、諦めずに猛追を仕掛け、3周2マークでついに瓜生を抜いた。これで30位から17位に浮上。11Rと12Rを残しており、予断を許さない状況だが、さすがにレース後の丸野ははっきりとわかるほど充実した表情を見せていた。あの瓜生正義を最後の最後に抜いたのだから、その満足感は大きかっただろう。

 その10Rでは、土屋智則が6着に敗れて、17位から一気にランクを下げてしまった。ヘルメットをかぶったままエンジン吊りを行なっており、その段階では淡々としているようにも見えたのだが、ヘルメットをとると顔は完全に引きつっていたのだった。ただでさえ6着は屈辱的であるのに、予選落ちを決定づけるシンガリ負けなのだから、心が痛むのは当然である。

 圏外からの浮上に失敗したのが、丸野に競り負けた瓜生正義。もし2番手を守り切っていたら丸野ではなく瓜生が圏内に浮上していたのだから、これは痛い競り負けだった。好漢瓜生とはいえ、根っこは勝負師である。エンジン吊りを終えた瓜生はやや苛立った表情を見せており、番手を守り切れなかった自分を責めている様子がありありとうかがえた。選手会代表という顔ももつ瓜生だが、これが本来のボートレーサー瓜生正義の姿だ。

 11Rでジャンプアップしたのは、逃げ切った毒島誠。レース前は30位前後だったものが、15位まで駆け上がって、予選突破を決めた。ただ、レース後は勝負駆けうんぬんよりも、先頭争いのデッドヒートを演じた宮地元輝と健闘を讃え合う姿が印象的だった。外マイの連発で追い詰めた宮地を毒島は褒め称え、競り落とされた毒島に宮地も敬意を表す。真っ向勝負のナイスレースだっただけに、両者とも実に清々しい表情を見せているのだった。

 この11Rはやはり圏外から圏内へと勝負駆けを果たせなかった選手たちのレース後が印象深い。4着に敗れた濱野谷憲吾は、もし3着ならギリギリ18位へと入っていた。12Rのメンバーを考えれば実質的予選突破当確だったわけで、あと1つの番手を上げられなかったことが実は痛かったのだ。そういう状況を把握していたかどうかはわからないが、レース後の濱野谷はいつも以上に疲労感を漂わせていたのだから、やはり痛恨の4着だと感じていたということだろう。レース終了時点では25位にランクを下げたのだが、18位から27位か、たったひとつの着順の差でそこまでの開きが出てしまうのだから、ボーダー近辺はやはり大混戦だったのだ。

 そして、開会式で「優勝します」と言い切った岡崎恭裕は、それを現実にできないことがここで確定してしまった。19位という順位で11Rに臨んだ岡崎は、絶対に3着以上が欲しかった。しかしバックは池田浩二と3番手争いながら微妙に先行され、2マークでは3番手を獲りにいくというよりはアタマまで狙ったかのような先マイ狙いを仕掛けたが、それがかえって番手を下げることになり、5着となってしまっている。レース後の岡崎は、表情がなかった、と言っていい。感情をいっさい表に出すまいとするかのように、まるで能面のごとき顔つきを見せていたのだ。僕にはそれがかえって、彼の心の中のやるせなさをあらわしているように感じた。闘志は間違いなく見せてくれたが、岡崎はそんなことで納得などしているはずがない。

 12Rは、1着でも18位には届かなかった吉川元浩が4カドまくりで快勝。このレースで圏外確定は吉川だけで、1号艇の石野貴之は2着条件、また今垣光太郎は無事故完走で当確も1位の可能性があり、その他3人は大きな着を獲ると圏外に落ちかねなかった。こうなるとやっぱり舟券買うほうとしては、一人圏外という選手を買いにくいですよね。3連単8マンシュウですか。選手はもちろん勝負駆けを頭に置いて戦うが、それが関係ないからといって勝負を捨てる選手はいない。こういうことも起きるのがボートレース、しっかり頭に刻み付けておこう。

 それはともかく、このカドまくりをもろに浴びた石野貴之が6着大敗を喫して、1号艇の勝負駆けをまさかの失敗という事態になってしまった。もちろん必勝の思いで臨んだイン戦、敗れた石野はエンジン吊りを終えると一瞬、うつろな目になっている。信じがたい結果だった、ということだろう。

 そして、この石野の勝負駆け失敗で18位に残ったのが、松井繁だ。同じ支部だったり、期だったりが、最後の最後に明暗を分けることって、本当によくあるんだよなあ。ただし、松井はそのことを知らなかったようだ。レース前には選手休憩所で茅原悠紀ときゃっきゃじゃれ合っており、完全にリラックスムード。エンジン吊りの作業を終えると、知己の記者さんにニッコニコで話しかけているのだ。ところが、そこで18位に残ったことを伝えられると、「あかんと思ってたわ」と言った瞬間に顔つきが引き締まった。準優に残ったことで、一気に戦闘モードがよみがえってきたのだ。そのスイッチの切り替えがいかにも王者。6号艇の準優はもちろん簡単ではないが、今日の夜から戦略を練ってくるのかもしれない。

 12Rで今垣光太郎が敗れたことで、1位は重成一人となった。トップに立ったあとも、静かに、粛々と過ごしていた重成。12Rが終わって気づくと、重成のボートだけ、艇番と艇旗が装着されていた。もちろん、1番、白旗。今垣が勝ってトップに立っても準優1号艇は確定していた。重成はいつの間にか、静かにその準備を終えていたわけだ。僕にはそれはもう、明日の必勝宣言に見えたのである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)