BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――最後は笑顔!

 キャーッ! キャーッ! キャーッ!
 寺田千恵が叫ぶ声がピットに響き渡る。奇声にも聞こえる(笑)その歓声は、もちろん連覇を果たした田口節子に向けられたものだ。
 実は、寺田と勝浦真帆は、勝者がどこに帰って来るのか、勘違いしていたようだった。凱旋する場所は展示ピット。しかしボートリフトのほうに向かっていた寺田と勝浦は、堀之内紀代子が「こっち! こっち!」と叫ぶのを見て、猛ダッシュ! その走りはまさしく超抜の伸びで、若い勝浦に負けないスピードだ。ようやく展示ピットに辿り着いたのとほぼ同時に田口が凱旋し、寺田は息も切らすことなく奇声……じゃなくて歓声をあげて、田口を称えたのだった。そのテンションが、ピットを一気に晴れがましいものにした! まさしくハッピーエンドの大晦日!

 なお、ひとしきり田口に祝福を送ると、寺田と勝浦はふたたびボートリフトにダッシュしたことも付け加えておかねばなるまい。そう、岡山からはもう一人、この優勝戦に送り出していたのだ。無念のシンガリ負けを喫してしまった守屋美穂。二人は守屋を出迎えに、また労いと慰めを送るために、同じようにかわいい後輩のもとに向かったのだ。

 そうなのだ。ハッピーエンドは一人だけ。これが勝負の世界というものだ。守屋も含めて、敗者たちは一様に苦い表情で引き上げてきている。ピット離れがもうひとつで6コースに引くことになった平山智加。レース間のスタート練習では1本、6コースから行なっているが、こういう形で出されてしまったような進入はやはり悔しさが残っただろう。カポックを脱いで返納作業に向かう際には、眉間にシワも寄っている。

 主張し切れず、おそらくは想定外の起こし位置となった遠藤エミもまた、悔いの残る一戦となったと思う。さらにいえば、番手争いでも競り負けたことも悔しさをつのらせるもの。長嶋万記とは足の差も歴然としていたから、その部分でも思うところはあったか。

 進入で沸かせた長嶋にしても、やるだけやったなどとは思えていないような、暗い表情のレース後だった。ピットに戻るや、まずは田口以外の全員に頭を下げていたが、そのときも神妙な表情。3着という結果も、6号艇だから上出来などとはまるで考えていないようだった。

 そして、2年連続1号艇で一敗地にまみれることになった平高奈菜は、とにかく辛そうな表情だった。昨年はまくられ、今年は差され、同じ相手にやられたのである。ピットに戻った瞬間から暗鬱な表情だった平高は、カポックを脱ぐ間も、返納作業の間も、それを終えて控室に戻る段になっても、時に天を仰いだり、うつむいたり、溜息をついたりと、ただただ悔しさを噛みしめているのだった。この心の傷は、しばらく癒えることはないのではないか、そんなふうにすら感じられる、落胆ぶりだったのである。この分を取り返すには、来年、もっともっと大きな結果を残すしかあるまい。それはもちろん、女子戦にとどまらない大きな舞台での結果も含まれる。やってのけるしかない。

「こみ上げるものがあった」。田口は会見でもそう語っていた。残念ながら、そのこみ上げてきた瞬間は見逃してしまっている。僕が見たのは、ボートに乗っての撮影で満面の笑みを見せる田口だ。開会式でのパフォーマンス「やればできる!」をカメラマンたちに何度もリクエストされて応え、さらには寺田&堀之内の3人で「やればできる!」と何度も叫んで、ニッコニコな田口である(寺田は自分と堀之内を「やれんかった二人なのに」と自虐してました。テラッチ、サイコー・笑)。ちなみに、このパフォーマンスに特に意味はなく、今後はやらないそうです。

 やはり田口は笑顔がよく似合う。昨年制した際にも涙を見せた瞬間はあったし、またピットでは辛そうな、というか、テンションの低い様子も何度も見てきたし、時にネガティブな雰囲気を発することもある田口なのだが、こうして結果を出した時の笑顔が実に対照的で、輝いていると思うのである。

 あまり大きなことも口にせず、会見では「技術では若い子に負けている」とか「来年の抱負は特にありません」とか、やっぱりネガティブな方向の言葉を口にしたりもしたのだが、だからこそまた大きな結果を出して、ニッコニコの田口節子を見せてほしい。
 クイーンズクライマックス2連覇はもちろん初の快挙! 間違いなく女子の第一人者と呼ばれる一人なのである。だから、次はビッグマウスを叩きながらのビッグウィンも見たいですね。そういうタイプではないんだろうけど、そんな田口節子を見てみたいと、ティアラをふたたびかぶる姿を見ながら思った次第であります。おめでとう!

 イェーイ! イェーイ! イェーイ!
 宇野弥生はとにかく、大喜びだったのである。すれ違う選手たちが続けざまにおめでとうの声をかけると、イェーイ! 池上カメラマンがレンズを向けると、イェーイ! ほんと、何回イェーイ!を言ったのか数えきれないほど、宇野は歓喜の声をあげ続けた。

 6コースからの優勝なのだ! 1号艇で逃げ切っての優勝なら安堵という感情もあるだろうが、大外からの突き抜けには歓喜が前面に出るのは当然だと思う。腹を据えて6コースに出たことが大正解だったのだから、会心の思いも大きかっただろう。宇野弥生がこんなにも喜びを爆発させるのを見たのはたぶん初めてだな。シリーズとはいえ、この優勝は宇野のテンションをマックスにまで引き上げたわけである。

 1号艇で敗れた渡邉優美は涙を見せていた。茶谷桜や香川素子が抱きしめて慰めてもいた。展示から戻った平高奈菜も。落合直子の前付けがあって、厳しい展開となっての敗戦。シリーズとはいえ、やはり1号艇で敗れたことは、昨年クライマックスで優出していたという立場から言っても、悔しさは大きいのだろう。
 ……と思ったのだが、そうではなかったようだ。残念ながら、シリーズ優勝戦は事故レースになっている。1マークでは金田幸子が転覆。さらに2マークでは落合が振り込んで、渡邉自身が接触している。これがまさに肝を冷やすシーンで、落合がすぐにレースに復帰したときは安堵したし(2マークの目の前で見ていて、落合がすぐに操縦席で伏せ込んでいたのが見えた)、元気にピットに戻ってきたときは心からホッとしたものだ。渡邉は何よりも落合が無事だったことに胸を撫で下ろし、心が解き放たれた。この秋に起こった同支部の悲しい出来事を思えば、その気持ちは理解できる。金田も大きなケガはなかったようだし、みんな元気にレースを終えられてよかった!

 そのうえで、渡邉は今日の敗戦を受け止めて、来年は12Rのほうを走れるよう、明日から奮起してほしい。そして、笑顔で年を越してください! 渡邉だけでなく、今節走ったすべての選手の皆さん、今年もお疲れ様でした!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)