BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――奥深すぎる!

 2Rで逃げ切った笠原亮はピットに戻ると足取りも軽く、菊地孝平と笑顔でグータッチを交わした。たかがイン逃げと言ってしまえばそうかもしれないが、これがSG復帰の初勝利! 本格的にSGに戻ってきたのだという実感も沸いただろうし、安堵の思いも強かっただろうし、何より予選は転覆などで苦戦もしていたから、喜びもひとしおだったであろう。
 実際のところ、簡単なイン戦ではなかったと思う。というのも、今節はインが強くない。とにかく差しやまくり差しがズブズブと刺さり、児島SGにしては異例の傾向となっているのだ。もちろん選手だって気づいていて、笠原は昨日、4日目に回ってくるであろう1号艇をモノにできるかどうか、不安がっていたのだ。それを払拭するイン逃げ勝利。とにもかくにも、本格的に「SGにお帰りなさい!」と言っておきたい。

 繰り返すが、今節はインが強くない。1Rでも佐藤翼が瓜生正義に差されてしまっている。まさに今節を象徴するような2コース差し。瓜生はレース後に目を細めていたが、佐藤はやはり落胆した表情。こうなってくると、佐藤の足の問題なのか、失敗があったのか、それとも今節はそういう水面なのか、あるいはそのすべてなのか、判断が難しい。

「潮じゃないかな」とは磯部誠。児島は海水面で、潮の満ち引きが当然あるわけだが、それが水面に影響を及ぼしているのではないか、という推測だ。そういえば、前検日だったか、JLCで解説を務めている田辺通治さんが「今節は潮回りが良くない」とポツリ口にしていたのを思い出す。なにしろ田辺さんにとって児島は地元水面だったわけで、その特徴を知り尽くしている。潮の干満についても体感があるだろう。たしかに、潮の満ち引きは単に水面が下がるのではなく、流れが生まれるわけである。河川を水面にしている江戸川に流れがあることは織り込み済みだが、実は海水面でも同様のことが起こっているわけだ。しかも、干満の差が激しいほど流れが速くなったりもするだろう。それがレースに影響を与えるのは、たしかに理解できる。「満潮ではイン有利、干潮ではダッシュが利く」というセオリーはよく聞くし、ぼんやりと意識してきたものだが、潮の満ち引き自体が別の傾向をもたらしたりする。ボートレースは実に奥が深い。

 2R発売中のこと、西山貴浩がもともと装着されていた、左カウルの「3」と書かれた艇番を外した。艇番置き場に向かった西山は、別の「3」を手にボートに戻る。つまり、艇番を交換したのだ。それって、何か意味あるの? 西山は艇番をボートに装着する4本のビスを示しながら、「これに裏表があるって知ってます?」。裏表?

 よく見ると、片面は軽い山状になっており、もう片面は真っ平になっている。どっちが裏でどっちが表かはともかく、西山がパチンパチンと装着すると、真っ平のほうが下になった。「これ、飛行機の羽根と同じなんですよ」。ああ、なるほど。飛行機の羽根は、上部が盛り上がっていて、下部が平らである。その形状が浮力と推進力を生んでいるのだ。ということは、この小さなビスがボートの推進力に影響するわけ?「僕はこだわっているんですよ。さっきの艇番は、ビスが少し曲がっていた。だから換えた」。ボートレーサーは、そこまで微細な部分にこだわりながら、少しでもボートを速くしようと戦っているのである。「ちょっとプロっぽいでしょ?」と西山は言ったけど、ちょっとどころか! 西山貴浩はただ面白いだけのレーサーではないということが改めておわかりいただけるだろう。

 そういえば、1R発売中に今垣光太郎がボートリフトの前まで来て、水面を5分ほども眺めていたのである。今日のピットは、風が吹き込んで実に爽快だった。児島ピットは2マークの奥にあるので、つまり強めの向かい風が吹いているということである。向かい風は昨日の朝も同じだったが、今日のほうがはるかに快適に風を感じる。つまり、微妙に気候が変わっており、同じ向かい風でも微妙に違っているのだ。そのため、今垣は空中線や吹き流しだけでなく、さまざまな部分をチェックしていたのだろう。今垣は2R出走、結果は残念ではあったが、実に細かな部分まで確認してから戦いに臨んだのである。ほんとにボートレースは奥が深い。深すぎる。僕もまだまだ学ぶことがいっぱいなのであります。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)