BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

正統なる奇襲

12R優勝戦
①平山智加(香川) 14
②遠藤エミ(滋賀)    14
③三浦永理(静岡)    12
④川野芽唯(福岡)    14
⑤渡邉優美(福岡)    11
⑥樋口ゆかり(岡山)10

 エミはどう走るか。
 ツケマイだった。
 強いホーム追い風の中でのツケマイは奇襲といっていい。追い風シリーズの今節は「2コースまくり」が3本決まっていたが、すべてスタート勝ち。スリット同体からジカまくりを狙った選手はすべて真横に流れ去ったし、そもそもそんな隊形からツケマイを選択する選手も少なかった。

 とりわけ、今日の追い風は2日目と同じか、それ以上に水面を波立たせていた。ジカまくりなど、もっての他。むしろ、差せば有利に働く完璧な差し水面。直前の11Rでは、スタートで突出した寺田千恵がジカまくりを敢行したが、舳先ひとつで抵抗されつつ真横へとぶん流れた。おそらく、ファイナル6戦士の脳裏には、その残像もあっただろう。

 スリット隊形は↑御覧のとおり美しいまでの横一線。こうなると、エミのジカまくりの可能性はさらに薄まる。私もこの隊形を見ながら、まずは「平山の逃げvsエミの差し、どっちが勝る?」と決め込んだ。私だけではないだろう。おそらく、インの平山も同体のスリットにやや安堵しつつ、エミの攻撃を「差し」想定に重きを置いたはずだ。

 平山の初動はかなり早かった。早い段階で慎重に落としながら、じわり1マークに寄りはじめた。これは焦りとかではなく、もっとも怖い遠藤エミの差し場を完全に消してしまおう、そんな初動に見えた。あるいは、この一連の行動には「エミがまくりに来ても流れるはず」という見積もりがあったかも知れない。寺田千恵のように。

 だがしかし。差すかまくるかしかない2コース・エミの判断は恐ろしく早かった。平山がじんわり1マークに寄りはじめた直後、もう握っていた。非常にリスキーな戦法だ。マイシロをまったく取らない、平山の艇に擦りつけるような強ツケマイだから、出口で流れるに決まっている。たとえ平山を攻め潰したとしても、誰かしらに差されて不思議のない戦術。

「作戦でもなんでもなく、平山さんがちょっと寄っていったので、これなら決まるかも、と」
 優勝インタビューで、エミは表情ひとつ変えずに振り返った。これなら決まるかも。その直感で、1マークのはるか手前で平山を叩き、ほぼ真っすぐに1マークを通過した。吹き荒れる追い風。どこまで流れる? 見ていたらば、エミの舳先はさほども流れず前に進みはじめていた。一見、鋭い差しが届きそうに見えた川野の舳先は、まったく届いていなかった。

 嗚呼。そう、あなたはSGウイナーなんだ。
 ここに至って、はたと気づく。いささか無謀に思えた直感ターンは、自身のターンスピードを織り込んでの直感ターンだった。SGを制した、女子の中では桁外れのターンスピードが一見無理筋に見えた攻撃を正当化した。そして、それはスピードだけにあらず。

「今日は差しもまくりも可能なように、しっかり調整したつもりです」
 樋口由加里らと何度も何度も足合わせをし、差しだけでなくまくった後の押し足まで念頭に入れて調整した。だとするなら、今日の勝利はサプライズな奇襲成功のようでいて、実は女子でただひとり格上のレーサーが勝つべくして勝った。そんな完勝劇という見方もできるだろう。
「やっと終わる」
 勝利を確信した瞬間、そう思った。
「とにかくホッとしました」
 ゴールを通過して、そう思った。
 このふたつの短い文面にも、遠藤エミというレーサーの今の立ち位置が滲んでいる気がした。
「(SGを勝ってから)しっかり結果を残せなかったから……だからこそ、この優勝が嬉しいです」
 最後の最後、わずかに目を潤ませたが、それは安堵でも歓喜でもなく、不甲斐ない1年あまりを想起しての悔し涙ではなかったか。2週間後の福岡が、またひとつ楽しみになった。(photos/シギー中尾、text/畠山)