BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

薄氷の完勝

12R優勝戦
①馬場貴也(滋賀)17
②桑原 悠(長崎)21
③宮地元輝(佐賀)15
④重成一人(香川)19
⑤原田幸哉(長崎)23
⑥深谷知博(静岡)22

『39歳のスーピードスター』馬場が4度目のSGタイトルを戴冠した。初制覇が34歳のチャレンジカップ。本人も「守田(俊介)さんと同じく、大器晩成型なんです(笑)」とスポーツ紙の記者に漏らしたようだが、確かに遅咲きの部類と言えるだろう。ちょっと驚くのはオールスターのデビュー年で、チャレンジカップを獲った翌年、35歳にして初めてファン投票で選出されている。

 そして今……馬場貴也の名はファンの間で知らない者はない、それどころか多くのファンが「現在最強のレーサー」として認知していることだろう。30代の半ばから急激に強くなった理由は、SGをひとつ獲った自信なのか、洗練されたウイリーなのか、地道な整備テクニックの熟成なのか、天性のターンスピードの進化なのか、誰からも愛されるキャラの成せる業なのか、その複数または全部なのか、外野の私に分かるはずもないのだが、とにかく私自身も「いま現在、もっとも速くて強いレーサー」と確信ながら異次元とも呼ぶべきスピードターンに酔いしれている。

 と、称賛の言葉を並べたが、今日の勝利はイン逃げ楽勝にはほど遠い、マジでギリッギリの辛勝だった。この大本命を追いつめたのは、やはりエース61号を駆る桑原。スタートでやや凹んだものの、スリットからの行き足の素晴らしいこと! 一瞬だけ突出した3コース宮地にたちまち追いつき、馬場よりもわずかに舳先を覗かせ、上段から覆いかぶさるような態勢から差しハンドルを突き入れた。

 対する馬場のインモンキーはまったく余裕のなさげな軌道で、さらにターン出口で足を滑らせるようなロスまで発した。
「展示航走ではこれで大丈夫かな、という感じだったのに、(直前の気象の変化で)まったく回転がズレていた。あそこもその影響です」
 その内でエース61号機が唸りをあげる。2艇身差があっという間に1艇身、1艇身差が半艇身まで詰まったところで、やっとロスから回復した馬場63号機が加速しはじめた。それでも直進したままでは敵わないから、やや絞め込んでエース機のスピードを殺す。絞めて絞めて桑原の舳先を払い落としたが、2マークのマイシロはほんのわずか。

 逆に桑原は外に開いて鋭角差しを狙う。両者の隊形とパワー差を踏まえれば逆転もありえたのだが……ターン出口から抜け出したのは引き波をスッと超えた桑原ではなく、マイシロの乏しい馬場の方だった。シンプルな見た目には、馬場63号機の押し足がより強力。そんな見え方だったが、実際にはそうではなく、馬場のあまりサイドを掛けずに滑らかな航跡で突き進む彼特有のモンキーターンが、じわじわと桑原の外から加速していった気がしてならない。いま、もっとも機力かターンスピードかが分かりにくい選手。それは間違いなく馬場貴也だと思っている。今日の2マークも判別の難しい抜け出しだったが、うん、オレはもう騙されないぞーー!(笑)

「3周ってこんなに長いんですね。勝利を確信したのは、本当に最終ターンを回ってから。回転が合ってないしうねりもあるので、最後のターンまで慎重に慎重に回り続けました」
 上りタイムは1分51秒7。レース本番は嵐の後の穏やかさを取り戻していたのに、8Rの佐藤翼より1秒ほど遅く、自身の節イチ時計より2秒3も遅いタイムでVゴールを通過した。このスピードスターらしからぬ時計が、今日の馬場のプレッシャーと実戦での気苦労を如実に証明している。
「予選3位で1号艇もラッキーでしたし、今節は運とツキだけの優勝でした」
 謙虚な馬場らしい言葉で勝因をまとめたが、もはやこのセリフを真に受けるファンはいないだろう。(photos/シギー中尾、text/畠山)