BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

交錯

12R優勝戦
①峰 竜太(佐賀)09

②山口 剛(広島)10
③桐生順平(埼玉)14
④吉田裕平(愛知)10
⑤茅原悠紀(岡山)09
⑥馬場貴也(滋賀)12

 峰が勝った。
 あの悲壮なグランプリから1年10カ月。久しぶりのSGで、蒲郡での8年前の忘れ物(メモリアル1号艇で元志に抜かれて2着)を取り戻し、デビュー通算100Vと全国24場制覇をいっぺんに成し遂げ、ついでに馬場を抜いて今年の獲得賞金のトップに君臨した。「6度目のSGタイトル」という勲章がかすむほどの、出来すぎの偉業。

 最強の天才レーサーへの賛辞は明日のスポーツ紙などあちこちで語られるだろうから、「アンチ峰舟券」の私からはこのへんにしておこう(笑)。
 圧勝の1マークではなかった。大本命のフトコロを脅かしたのは、やはり「天才レーサー」と呼ばれ続ける桐生。3コース、やや遅れ目のスタートから焦ることなく直進し、山口が差しの初動を入れてもすぐには動かず、山口が完全に差しの態勢に入ってから、サイドをほとんど掛けない滑らかな放物線で峰と山口のど真ん中を突き抜けた。巷でよく見るツケマイ気味のまくり差しとも、宮地元輝のような急旋回するそれとも違う、内のふたりを真綿で絞め倒すような妖艶な旋回だった。

 ぐさっ。
 そんな音が聴こえるような鋭角まくり差しは、確かに峰のフトコロに突き刺さったはずだ。そして、相手が並みのA級選手だったら、まんま突き抜けていたはずだ。が、貫いたはずの桐生の舳先は、ものの2秒もたたないうちに置き去りにされた。

 今日も峰は「凄いグリップしてた、舟の返りが凄かった、僕のモーターがいちばん出てた」で片づけるだろうか。確かに出口の押し足は桐生のそれを圧倒したが、それもこれも峰のちょっと異形にしてダイナミックなフォームから生み出される高速ターン~さらには絶妙のタイミングで繰り出されるウイリーに拠るものではなかったか。

 うん、このあたりは昨日も書いたが、機力か旋回かを突き詰めても答えは出ないか。今日もいつものように「きっと、どっちも凄かった」でお茶を濁すとしよう(笑)。とにもかくにも、「天才」と謳われるふたりの一瞬の交錯は、SGの頂点を決するに相応しい高度なものだった。

 敗者についても少々。今節を大いに盛り上げたのは新開航と吉田裕平、ふたりの若者だった。118期の新開がシリーズの先頭を突っ走り、1期先輩の裕平がその背中を追随した。昨日の11R、道中のすったもんだの末にふたりの立ち位置は入れ替わり、裕平が新開に代わってSGの最高の舞台に立った。

 そして、26歳の裕平はこの檜舞台でも大健闘を見せた。4カドから的確に差して峰と桐生を追撃し、背後から襲い掛かる馬場と茅原を必死のパッチで防ぎまくった。GP覇者3人+準Vひとりのど真ん中で演じた立ち回りは、この地元の若者をどんだけ成長させたか。計り知れない経験値を吸収したことだろう。

 一方、1期上の先輩の死闘を、27歳の新開はさまざまな思いを抱きながら見つめたことだろう。裕平と自分を重ね合わせ、昨日の悔しさをまざまざと思い起こしたかも知れない。今節の新開にとっては、そのさまざまな思いこそが裕平とは一味違う経験値として明日の肥やしになる。
 そして、ふたりはそんな実戦×思いの交錯、繰り返しの中で、やがては峰や桐生らと対等に渡り合える戦士になってゆく。
 そんな可能性をじんわりと感じさせる裕平と新開だった。もちろん、まだまだ、まだまだ彼らの背中は遠いけれど。(photos/シギ―中尾、text/畠山)